用語集

有機ラボの記事に出てくる基本用語: 75語

記事を読んでいて分からない言葉が出てきたときのための、短い説明集です。はじめて学ぶ人にも読めるように、ほかの専門用語はなるべく使わずに説明しています。説明の中の青い文字はこのページの別の項目へ、「くわしく」はその用語をくわしく扱っている記事へのリンクです。用語は記事が増えるのに合わせて追加していきます。

命名法

主鎖しゅさ

化合物に名前を付けるとき、名前の土台にする炭素の鎖。まず最も優先順位の高い官能基を含む鎖を選び、そのうえで長さなどの規則にしたがって1本に決めます。主鎖以外の部分は置換基として、接頭語で名前に加えます。

くわしく: 主鎖選択

官能基の優先順位かんのうきのゆうせんじゅんい

1つの分子に官能基がいくつもあるとき、どれを名前の末尾(接尾語)で表すかを決める順位。カルボン酸 > エステル > アミド > ニトリル > アルデヒド > ケトン > アルコール > アミン の順が代表的で、順位の低い官能基は hydroxy- や amino- のような接頭語で表します。

くわしく: 主鎖選択

慣用名かんようめい

IUPACの規則にしたがって組み立てた名前(系統名)とは別に、昔から使われてきた名前。酢酸(acetic acid)やアセトン(acetone)などがその例です。IUPACの規則でも、一部の慣用名はそのまま使うことが認められています。

保持名ほじめい

IUPACの規則の中で、規則から組み立て直さずにそのまま使うことが正式に認められている伝統的な名前。酢酸(acetic acid)やピリジン(pyridine)のように優先IUPAC名(PIN)になるものと、アセトン(acetone)のように一般命名法でだけ使えるものがあります。

立体化学

不斉炭素ふせいたんそ

4つの異なる原子または原子団が結合した炭素。このような炭素をもつ分子は、鏡に映した形と重ね合わせることのできない2つの形(エナンチオマー)をとることがあります。

CIP順位則シーアイピーじゅんいそく

不斉炭素や二重結合に付いた原子・原子団に優先順位を付けるための規則で、提案した3人(カーン・インゴールド・プレローグ)の頭文字から名付けられました。まず直接結合している原子の原子番号を比べて大きいほうを優先し、同じならその先に付いている原子を順にたどって比べます。R/S や E/Z を決めるときに使います。

エナンチオマー(鏡像異性体)エナンチオマー(きょうぞういせいたい)

互いに鏡に映した関係にあり、重ね合わせることのできない2つの立体異性体。融点や沸点などは同じですが、偏光面(一方向にだけ振動する光の振動面)を回転させる向きが逆になります。光学異性体と呼ばれることもあります。

ジアステレオマージアステレオマー

立体異性体のうち、互いに鏡に映した関係にないもの。不斉炭素を2つもつ分子で片方の不斉炭素だけ立体配置が逆になった組(例:(2R,3R) 体と (2R,3S) 体)や、二重結合の cis/trans 異性体がその例です。エナンチオマーと違い、融点や沸点などの物理的性質がふつう異なります。

ラセミ体ラセミたい

エナンチオマーどうしが 1:1 で混ざったもの。偏光面を回転させる働き(旋光)が互いに打ち消し合うので、全体としては偏光面を回転させません。

cis/trans 表記・E/Z 表記シス/トランスひょうき・イー/ゼットひょうき

二重結合や環のまわりで、置換基がどちら側にあるかを表す記号。cis は同じ側、trans は反対側を表します。二重結合の両端の炭素に、比べる基準になる共通の置換基がないと cis/trans では表せないため、CIP順位則を使う E/Z 表記が使われます(各炭素で優先順位の高い置換基どうしが同じ側なら Z、反対側なら E)。

立体配座りったいはいざ

単結合のまわりの回転によって移り変わる、分子の一つひとつの形。結合を切らずに移り変われ、室温ではすばやく入れ替わるので、ふつうは別々の物質として取り出せません。どの形をとりやすいかは、分子の安定性や反応の進みやすさに影響します。

アキシアル・エクアトリアル

いす形のシクロヘキサンで、炭素に付いた結合がとる2つの向き。環の上下方向にまっすぐ伸びるものをアキシアル、環の外側へ向かってほぼ横向きに伸びるものをエクアトリアルと呼びます。大きな置換基は、ほかの原子とぶつかりにくいエクアトリアルに来やすくなります。

環ひずみかんひずみ

環状の分子で、結合角が無理のない角度からずれたり、隣どうしの結合がぶつかる並び方をとらされたりすることで生じる余分なエネルギー。シクロプロパンのような小さな環で大きく、シクロヘキサンではほとんどありません。

アンチペリプラナー(反位配座)アンチペリプラナー(はんいはいざ)

単結合をはさんだ2本の結合が、同じ平面の上で互いに反対を向いている配置(単結合の軸の方向から見て180°前後)。E2反応では、引き抜かれる水素と外れる脱離基がこの配置にあると反応が進みやすくなります。

立体特異性りったいとくいせい

立体配置(原子の空間的な並び方)だけが異なる出発物から、それぞれ決まった別々の立体異性体ができる反応の性質。たとえば cis と trans のアルケンに同じ反応を行ったとき、それぞれから異なる立体の生成物ができるなら、その反応は立体特異的です。

反応機構

求核剤きゅうかくざい

電子対を差し出して、電子の足りない原子(多くは、わずかに正の電荷(δ+)を帯びた炭素)と新しい結合をつくる分子やイオン。OH− などの陰イオンや、非共有電子対をもつ水・アンモニアなどが代表です。

求電子剤きゅうでんしざい

相手から電子対を受け取って、新しい結合をつくる分子やイオン。H+ やカルボカチオンのように正電荷をもつものや、カルボニル基の炭素のように電子が不足した部分をもつものが代表です。

カルボカチオン

正電荷をもつ炭素(結合が3本しかなく、電子が足りない炭素)を含むイオン。反応の途中で一時的にできる不安定な中間体で、SN1反応や E1反応で現れます。アルキル基の多く付いた炭素にできるものほど安定です。

カルボアニオン

負電荷をもつ炭素を含むイオン。ふつうはとても不安定ですが、カルボニル基の隣のように負電荷を酸素まで広げられる位置にできると安定になり(エノラート)、反応に使えるようになります。

求核置換反応きゅうかくちかんはんのう

求核剤が炭素を攻撃し、その炭素に付いていた原子や原子団(脱離基)と入れ替わる反応。sp3 の炭素では、一段階で進む SN2 と、先に脱離基が外れてカルボカチオンを経る SN1 の2つの型があります。カルボニル基の炭素では、付加と脱離の2段階で進みます(求核アシル置換)。

脱離基だつりき

置換反応や脱離反応で、結合の電子対をもって基質から外れていく原子や原子団。外れたあとの形(多くは陰イオン)を安定に保てるもの、つまり弱い塩基ほど外れやすく、ヨウ化物イオン・臭化物イオンやトシラートは外れやすい脱離基です。水酸化物イオン(OH−)は外れにくいので、アルコールはプロトン化するなどして外れやすい形に変えてから置換させます。

脱離反応だつりはんのう

分子から原子や原子団が外れて、二重結合ができる反応。多くの場合、隣り合う炭素から、水素と脱離基(結合の電子対をもって外れていく原子や原子団)が1つずつ外れます。進み方によって E1・E2・E1cb の3つの型に分けられます。

E1cb機構イーワンシービーきこう

塩基がまず水素を引き抜いて陰イオン(カルボアニオン)をつくり、そのあとで脱離基が外れる、2段階の脱離反応の進み方(cb は共役塩基 conjugate base の略)。引き抜かれる水素がカルボニル基の隣にあるなど、生じる負電荷が安定になるときに起こります。塩基性の条件でのアルドール縮合の脱水がその例です。

求核付加きゅうかくふか

求核剤が二重結合の片方の原子を攻撃して新しい結合をつくり、二重結合が単結合になる反応。代表はカルボニル基(C=O)への付加で、求核剤が炭素と結合し、酸素は負電荷をもった形になります(あとでプロトンを受け取るとアルコールになります)。

四面体中間体しめんたいちゅうかんたい

求核剤がカルボニル炭素に付加したときにできる中間体。平面の三方向に結合していたカルボニル炭素が、4本の単結合をもつ四面体形の炭素になります。エステルなどではここから元の基が外れて C=O が作り直されます。アルデヒドやケトンでは、プロトンを受け取って付加で止まるか、アミンやアルコールが付加した場合は、酸触媒のもとで水が外れて二重結合をもつ陽イオンになり、イミンやアセタールへ進みます。

求核アシル置換きゅうかくアシルちかん

カルボン酸やその誘導体(エステル・アミド・酸塩化物など)で、求核剤がカルボニル炭素に付加して四面体中間体をつくり、そこから元から付いていた基が外れて C=O が作り直される反応。全体として、カルボニル炭素に付いた基が入れ替わります。エステルの加水分解やエステル化がその例です。

エステル化エステルか

カルボン酸とアルコールから、エステルと水ができる反応。酸触媒のもとで加熱する方法(Fischerエステル化)が代表的で、逆向きの反応(エステルの加水分解)も起こる平衡反応です。求核アシル置換の一つで、ポリエステルをつくる重合もこの反応のくり返しです。

酸触媒さんしょくばい

酸が反応の途中でプロトン(H+)を渡し、最後に同じだけ受け取り直すことで、自分は消費されずに反応を速めるはたらき。カルボニル化合物の反応では、カルボニル酸素をプロトン化して炭素を攻撃されやすくしたり、OH 基を水として外れやすい形(–OH2+)に変えたりします。

グリニャール反応

ハロゲン化アルキルなどとマグネシウムからつくるグリニャール試薬(RMgX)を、アルデヒドやケトンなどのカルボニル化合物に付加させる反応。炭素と炭素の結合を新しくつくれるので、アルコールの合成に広く使われます(エステルや二酸化炭素とも反応します)。試薬は強い塩基でもあるので、水やアルコールなど酸性の水素をもつ物質が無い条件で扱います。

有機金属試薬ゆうききんぞくしやく

炭素と金属(マグネシウム・リチウム・銅・亜鉛など)の結合をもつ化合物を、反応剤として使うもの。炭素と金属の結合の電子が炭素の側にかたよっているので、炭素が求核剤として働きます。グリニャール試薬のようにカルボニル炭素に付加するもののほか、クロスカップリングでは、パラジウムなどの触媒を仲立ちにしてハロゲン化アリールの炭素とつながります。

求電子付加きゅうでんしふか

アルケンなどの二重結合の電子が求電子剤を攻撃するところから始まる付加反応。HBr の付加では、まず H+ が付いてカルボカチオンができ、そこに Br− が結合します。

anti付加アンチふか

二重結合の2つの炭素に、2つの原子(原子団)が互いに反対側の面から付く付加の仕方。アルケンへの臭素(Br2)の付加が代表例です。同じ側の面から付くものは syn 付加と呼びます。

Markovnikov則マルコフニコフそく

HBr のような H–X がアルケンに付加するとき、水素は水素を多くもつほうの炭素に付き、X はもう一方の炭素に付くという経験則。途中でできるカルボカチオンがより安定になる向きに反応が進むため、と説明されます。

Zaitsev則ザイツェフそく

脱離反応で二重結合のでき方が何通りかあるとき、置換基の多い(より安定な)アルケンが主生成物になりやすいという経験則。

Hofmann則ホフマンそく

第四級アンモニウム塩の脱離(ホフマン脱離)や、かさ高い塩基を使った E2反応などで、置換基の少ないアルケンが主生成物になるという経験則。Zaitsev則とは逆の結果です。

位置選択性いちせんたくせい

結合ができたり切れたりする場所に何通りかの可能性があるとき、そのうち一方が優先して起こること。プロペンに HBr を付加すると、主に 2-ブロモプロパンができるのがその例です。

速度支配と熱力学支配そくどしはいとねつりきがくしはい

生成物が何種類かできるとき、その割合を決める2つの考え方。低温などで反応が後戻りしない条件では、速くできる生成物が多くなります(速度支配)。高温などで反応が行き来できる条件では、より安定な生成物が多くなります(熱力学支配)。

ラジカル

不対電子(対になっていない電子)をもつ原子や分子。代表的には、結合の電子が1個ずつ両側に分かれる切れ方(均一開裂)で生じます。多くはすぐにほかの分子と反応しますが、空気中の酸素分子は不対電子を2つもつのに安定に存在します。

カルボン酸誘導体カルボンさんゆうどうたい

カルボン酸の OH を別の原子や原子団に置き換えた化合物のまとめた呼び名で、エステル・アミド・酸塩化物・酸無水物がその代表です。求核剤と反応して別の誘導体に変わる反応(求核アシル置換)を起こし、反応しやすさは酸塩化物がもっとも高く、アミドがもっとも低い順に並びます。

ラジカル連鎖反応ラジカルれんさはんのう

不対電子をもつ原子や分子(ラジカル)が別の分子と反応して新しいラジカルを生み、そのラジカルがまた次の分子と反応する、という具合にくり返し進む反応。ラジカルができる開始、ラジカルが入れ替わりながら生成物をつくる成長、ラジカルどうしが結びついて消える停止の3段階からなり、アルカンのハロゲン化やラジカル重合がその例です。

α水素アルファすいそ

カルボニル基(C=O)のすぐ隣の炭素(α炭素)に付いた水素。塩基で引き抜かれやすく、生じた負電荷は酸素まで広がって安定になるため、エノラートの生成につながります。

エノラート

カルボニル化合物の α水素が塩基に引き抜かれてできる陰イオン。負電荷が炭素と酸素に分かれて広がっています。主に炭素の側で相手と結合する求核剤として、アルドール反応やクライゼン縮合に使われます。

ケト-エノール互変異性ケト-エノールごへんいせい

カルボニル化合物(ケト形)と、C=C の炭素に –OH が付いた形(エノール形)が、水素の移動によって互いに移り変わる関係。どちらも実在する別々の分子で、ふつうのケトンやアルデヒドではケト形のほうがはるかに多く存在します。

クライゼン縮合クライゼンしゅくごう

エステルの α水素から生じたエノラートが、もう1分子のエステルのカルボニル炭素を攻撃し、アルコールの陰イオン(RO−)が外れて β-ケトエステル(ケトンの C=O とエステルが炭素1つをはさんで並んだ化合物)ができる反応。同じ分子の中で起こって環ができるものは、ディークマン縮合と呼ばれます。

共役ジエンきょうやくジエン

二重結合が単結合1本をはさんで2つ並んだ化合物(1,3-ブタジエンなど)。2つの二重結合の電子がつながって広がっているため、付加反応で 1,4-付加が起こったり、ディールス・アルダー反応に使われたりします。

ペリ環状反応ペリかんじょうはんのう

環状に並んだ原子の間で、いくつかの結合の組み替えが中間体を経ずに一度に起こる反応。主なものに付加環化・シグマトロピー転位・電子環状反応があります。加熱と光のどちらで進むかや、生成物がどんな立体になるかが、関わる軌道の形(対称性)で決まります。

付加環化ふかかんか

二重結合(または三重結合)をもつ2つの分子(または1つの分子の2か所)が、両端どうしで新しい結合を2本つくって環になる反応。ディールス・アルダー反応([4+2]付加環化)が代表例です。

ディールス・アルダー反応ディールス・アルダーはんのう

共役ジエンと、ジエノフィル(求ジエン体)と呼ばれるアルケンなどが反応し、炭素–炭素結合を2本同時につくって六員環ができる反応。多くは加熱するだけで進み、出発物の立体配置がそのまま生成物に受け継がれます(立体特異的)。

配向性はいこうせい

置換基をもつベンゼン環にさらに置換反応を行うとき、新しい置換基がどの位置(オルト・メタ・パラ=置換基のすぐ隣・1つおいた隣・向かい側)に入りやすいかという性質。電子供与基の多くはオルト・パラ配向性、電子求引基の多くはメタ配向性を示します。ハロゲンは例外で、反応を遅くしながらオルト・パラに配向します。

フリーデル・クラフツ反応フリーデル・クラフツはんのう

塩化アルミニウム(AlCl3)などのルイス酸を使って、ベンゼン環にアルキル基(アルキル化)やアシル基 R–C(=O)–(アシル化)を導入する反応。芳香環に炭素–炭素結合をつくる代表的な方法です。

酸化・還元(有機化学での考え方)さんか・かんげん

有機化学では、炭素が酸素などの電気陰性度の大きい原子との結合を増やす(または水素を失う)変化を酸化、その逆を還元と考えると便利です。たとえば第一級アルコール → アルデヒド → カルボン酸 の順に酸化が進み、逆向きが還元です。

構造と結合

混成軌道こんせいきどう

原子の s 軌道と p 軌道が混ざり合って、同じ形の新しい軌道ができるという考え方(モデル)。混ざり方によって sp3・sp2・sp の3種類があり、それぞれ正四面体形・平面三角形・直線形という結合の向きを説明します。

結合角けつごうかく

1つの原子から出ている2本の結合がつくる角度。sp3 の炭素(メタンなど)では約109.5°、sp2 の炭素(エチレンなど)では約120°、sp の炭素(アセチレンなど)では180°が目安です。骨格式でジグザグを120°で描くのは見やすさのための約束で、実際の角度とは限りません。

電気陰性度でんきいんせいど

結合している原子が、共有している電子を自分のほうへ引き寄せる強さの目安。周期表の右上の元素ほど大きく、F > O > Cl, N > C > H の順です。電気陰性度の差が大きい結合ほど、電子が片方の原子にかたよります(分極)。

非共有電子対ひきょうゆうでんしつい

原子のいちばん外側の電子のうち、結合に使われずに2個1組で残っているもの(孤立電子対とも呼ばれます)。水の酸素やアンモニアの窒素がもち、プロトンや電子の足りない原子に差し出されて、塩基や求核剤としての働きを生みます。

超共役ちょうきょうやく

正電荷や不対電子をもつ炭素に隣り合う C–H や C–C の σ 結合の電子が、その炭素の空の p 軌道(カルボカチオン)や電子が1個だけ入った p 軌道(ラジカル)に少し流れ込み、正電荷や不対電子を分散させる効果。アルキル基が多く付いた炭素のカルボカチオンやラジカルほど安定になる理由として使われます。

共鳴構造きょうめいこうぞう

1つの分子の電子の状態を1枚の構造式では表しきれないときに使う、複数の構造式の書き方。実際の分子はそれらを重ね合わせた中間の状態にあり、構造式の間を行き来しているわけではありません。構造式どうしは両向きの矢印(↔)で結びます。

電子求引基でんしきゅういんき

結合している炭素や芳香環から電子を引き寄せる置換基。ニトロ基(–NO2)、カルボニル基(C=O)、シアノ基(–CN)などがあります。近くにある正電荷を不安定にし、負電荷を安定にします。

電子供与基でんしきょうよき

結合している炭素や芳香環へ電子を押し出す置換基。アルキル基や、芳香環に付いた –OH・–NH2(非共有電子対を環へ押し出す)などがあります。近くにある正電荷を安定にします。

ブレンステッド・ローリーの酸と塩基ブレンステッド・ローリーのさんとえんき

酸を「プロトン(H+)を与えるもの」、塩基を「プロトンを受け取るもの」とする定義。水溶液の中に限らず使えるので、有機反応でプロトンがやりとりされる場面の多くを説明できます。

ルイス酸・ルイス塩基ルイスさん・ルイスえんき

酸を「電子対を受け取るもの」、塩基を「電子対を与えるもの」とする定義。プロトンを含まない BF3 や AlCl3 も酸として扱えます。反応機構で使う求電子剤・求核剤と、よく似た考え方です。

共役酸・共役塩基きょうやくさん・きょうやくえんき

酸がプロトン(H+)を失ってできるものを、その酸の共役塩基と呼びます。逆に、塩基がプロトンを受け取ってできるものが共役酸です。強い酸の共役塩基ほど、弱い塩基になります。

pKa(酸解離定数)ピーケーエー

酸の強さを表す数値で、酸解離定数 Ka を使って pKa = −log Ka と表します。pKa が小さいほどプロトンを手放しやすい、強い酸です。たとえば酢酸の pKa は 4.76 です。

分子軌道ぶんしきどう

分子全体に広がった、電子の入る場所。それぞれの原子の軌道が重なり合ってでき、エネルギーの低いものから順に電子が2個ずつ入ります。

フロンティア軌道フロンティアきどう

分子軌道のうち、電子が入っている中で最もエネルギーの高い軌道(HOMO)と、空の中で最もエネルギーの低い軌道(LUMO)の2つ。反応の起こりやすさや起こる位置を、この2つの軌道だけで考える方法をフロンティア軌道論といい、福井謙一らが提唱しました。

HOMO・LUMOホモ・ルモ

HOMO(最高被占軌道)は電子が入っている軌道のうち最もエネルギーの高いもの、LUMO(最低空軌道)は空の軌道のうち最もエネルギーの低いもの。反応では、一方の分子の HOMO から相手の LUMO へ電子が流れ込むと考えます。求核剤では HOMO が、求電子剤では LUMO が反応の主役になります。

芳香族性ほうこうぞくせい

ベンゼンのように、環を一周してつながった π 電子(環の面の上下に広がる p 軌道に入った電子。二重結合の電子のほか、非共有電子対が加わることもあります)によって、特別に安定になる性質。平らな環で π 電子の数が 4n+2 個(2・6・10…)のときに現れ(ヒュッケル則)、付加反応よりも置換反応を起こしやすいといった特徴があります。

芳香族ヘテロ環ほうこうぞくへてろかん

環をつくる原子に窒素・酸素・硫黄などの炭素以外の原子(ヘテロ原子)を含み、芳香族性をもつ環。ピリジン・ピロール・フラン・チオフェンなどがその例で、ヘテロ原子の p 軌道も環を一周する π 電子の系に加わります。

水素結合すいそけつごう

O–H や N–H の水素と、別の分子(または同じ分子の別の場所)の酸素や窒素の間に働く、特に強い引き合い。アルコールや水の沸点が同じくらいの大きさの分子より高いのはこのためです。IRスペクトルでは、水素結合した O–H の吸収は幅広くなります。

結合解離エネルギーけつごうかいりエネルギー

気体の分子で、ある結合を均一開裂させ、両側の断片に電子を1個ずつ残して切るのに必要なエネルギー(ふつう1 molあたりで表す)。値が小さい結合ほど切れやすく、ラジカルがどの水素を引き抜きやすいかを考えるときの目安になります。

合成戦略

逆合成解析ぎゃくごうせいかいせき

つくりたい分子(目的物)から出発して、「何と何を反応させればこれができるか」を逆向きにたどり、手に入りやすい出発物まで分解していく合成計画の考え方。E. J. Corey(コーリー)が体系化しました。

切断せつだん

逆合成解析で、目的物の結合を頭の中で1本切り、2つの部品(シントン)に分ける操作。実際に知られている反応を逆向きにしたものになるように切るのがポイントです。

官能基相互変換(FGI)かんのうきそうごへんかん

逆合成解析で、ある官能基を、反応させやすい(導入しやすい)別の官能基に読み替える操作。たとえば芳香環に付いたアミノ基(–NH2)を「ニトロ基を還元したもの」と読み替えると、ニトロ化という導入しやすい反応が使えるようになります。

保護基ほごき

反応させたくない官能基を一時的に別の形に変えて守り、目的の反応が終わってから元に戻すための原子団。アルデヒドやケトンを、アルコールと反応させてアセタールという形に変えて守る方法が代表例です。

アセタール保護アセタールほご

アルデヒドやケトンを、酸触媒のもとでアルコール(よく使うのはエチレングリコール)と反応させてアセタール(1つの炭素に –OR が2つ付いた形)に変え、C=O を一時的に守る方法。アセタールは塩基・ヒドリド還元剤・グリニャール試薬とは反応せず、酸の水溶液で処理するともとのカルボニル化合物に戻ります。