命名法

主鎖選択(主鎖の選び方)のルール(優先順位・具体例・よくある間違いなど)

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キーワード: IUPAC命名法, 官能基優先順位, 置換基の数

有機化合物の名前をつけるとき、最初につまずくのがたいてい「主鎖(親構造)をどう選ぶか」です。

「一番長い炭素鎖を選べばいい」とだけ覚えていると、意外なところで足をすくわれます。構造式に描かれた一番目立つ線が、必ずしも一番長い鎖とは限らないからです。

1. 基本ルール:最長の炭素鎖を選ぶ

主鎖とは、化合物名の語幹(methane・ethane・propane…)を決める、炭素鎖のことで、官能基が無ければ最も長く連続した鎖が選ばれます(官能基がある場合は3節)1。

「最長」を判断する基準は、紙の上の見た目ではなく、実際につながっている炭素の数です。構造式はきれいに一直線で描かれることが多いので、つい目に入った一本の線を主鎖だと思い込みがちです。

ですが、枝のように描かれた部分の先まで律儀に数えると、実はそちらの方が長いという構造がよくあります。

図1の構造で確かめてみましょう。

図1. 横一列の部分は炭素7個(heptane)に見え、5番目の炭素に青で示した3個の枝(propyl基)がついているように見える。

これをそのまま横一列を主鎖とみなし、3-propylheptane(右端から番号を振った名前)と読んでしまうのが典型的な間違いです。

実際に炭素をたどると、横一列の1〜5番目から青い枝の3個へと続く経路は、合計8個の炭素が連続しています。もとの横一列より1個長い鎖が、枝の中に隠れていたことになります。

図2. 緑の経路(8個の連続した炭素)が本当の主鎖=octane。オレンジの2個は主鎖から見るとethyl基になる。正しい名前は4-ethyloctane。

枝の先まで数える癖をつけると、この手の見落としを防げます。

2. 同じ長さの鎖が複数ある場合

最長の候補が複数見つかることもあります。その場合は、置換基の数がより多い鎖を選びます。図3の分子(3-ethyl-2-methylpentane)で確かめてみましょう。

図3. 3-ethyl-2-methylpentane。青がmethyl基、オレンジがethyl基。
表1. 3-ethyl-2-methylpentane の候補鎖(どちらも5個の炭素で同じ長さ)
候補主鎖置換基置換基の数
候補Apentane(5C)ethyl・methyl2個
候補Bpentane(5C・別経路)isopropyl1個

候補Bも同じ5個の鎖を経路として持っていますが、まとめると置換基が1個に減ってしまいます。置換基の数が多い候補Aが優先されるため、正しい名前は3-ethyl-2-methylpentaneです。

それでも決まらない場合は、置換基の位置番号ができるだけ小さくなる方を選びます。

なお、表1のisopropylは慣用の置換基名で、2013年のIUPAC勧告の優先IUPAC名(PIN)ではpropan-2-ylと書きます。

3. 官能基がある場合は最優先

カルボン酸やアルコールのように、名前の語尾(接尾語)で表す官能基(主特性基)がある場合は、鎖の長さよりその官能基を含むかどうかが優先されます1。図4のvalproic acid(2-propylpentanoic acid、抗てんかん薬として知られる化合物)で確かめてみましょう。

OOH
図4. 2-propylpentanoic acid。オレンジがpropyl基。左上のC=O・OHがCOOH(カルボキシ基)。
表2. 2-propylpentanoic acid の候補鎖
候補炭素数COOHを含むか採用
COOHを含む鎖5個含む◯
プロピル側を通る鎖7個含まない×

プロピル基の方へ数えると7個の鎖が見つかりますが、COOHを含まないため主鎖にはなれません。鎖の長さでは劣っていても、官能基を含む5個の鎖が優先されます。

迷ったときの確認順序は「①接尾語で表す官能基を含むか → ②長さ → ③置換基の数」です。

ハロゲン(chloro-など)やnitro-のように、接頭語でしか表さない基は①では考えません。たとえばCH3CH2CH(CH2Cl)CH2CH2CH3は、塩素を含む5個の鎖ではなく、塩素を含まない6個の鎖を主鎖にして3-(chloromethyl)hexaneとなります。

ここで紹介した3つの基準は、飽和の鎖(アルカンの骨格)でよく使う簡略版です。環構造やヘテロ原子を含む分子など、より複雑なケースでは、IUPAC公式のP-44・P-45にさらに詳しい判断基準が定められています(置換基の数の基準はP-45.2.1)。

また、二重結合・三重結合を含む鎖では、2013年のIUPAC勧告は「多重結合を含むか」より「鎖の長さ」を先に比べます。以前の規則とは順番が逆なので、古い教科書で学んだ場合は注意してください。長さが同じ鎖どうしでは、次に多重結合の数を比べ、置換基の数を比べるのはその後です1。

理解度チェック

Q1. 「炭素7個の鎖に3個の枝がついている」ように見える構造で、なぜ実際には8個の鎖を主鎖に選ぶ必要があったのか、自分の言葉で説明できますか?

A1. 主鎖は紙面上の見た目ではなく、実際に連続してつながっている炭素の数で決まるからです。枝に見える部分の先まで数え直すと、横一列の7個より長い8個の経路が見つかったため、そちらを主鎖として採用する必要がありました。

Q2. 同じ長さの鎖が2つ見つかったとき、何を基準にどちらを選びますか?

A2. 置換基の数がより多い方の鎖を選びます。IUPACの規則でそのように決められているためです。

Q3. valproic acid(2-propylpentanoic acid)で、7個の鎖ではなく5個の鎖が主鎖に選ばれたのはなぜですか?

A3. 7個の鎖はCOOH(官能基)を含んでいないためです。接尾語で表す官能基を含むかどうかは、鎖の長さより優先される判断基準なので、COOHを含む5個の鎖が主鎖になります。

頭で分かっていても、実際に問題を前にすると同じ間違いを繰り返しがちです。IUPAC命名ドリルで似た構造をいくつか解いてみると、感覚がつかみやすくなると思います。

参考文献
  1. Favre, H. A.; Powell, W. H. Nomenclature of Organic Chemistry: Recommendations and Preferred Names 2013 [Online]; Royal Society of Chemistry: Cambridge, 2013; Rules P-44.0, P-44.1.1, P-44.3, P-44.4.1, P-45.2.1. https://iupac.qmul.ac.uk/BlueBook/P4.html.