E2反応とは、塩基がβ水素(脱離基の隣の炭素に付いた水素)を引き抜くのと同時に脱離基が外れ、一段階で二重結合ができる脱離反応です。
E1反応とは、まず脱離基が外れてカルボカチオンができ、そのあとβ水素がプロトンとして外れて二重結合ができる、二段階の脱離反応です。
脱離反応は、置換反応の裏側にある反応です。SN1・SN2の記事では、求核剤が基質を攻撃して置き換わる反応を扱いました。今回のE1・E2は、同じ基質から水素(プロトン)と脱離基が外れて、二重結合ができる反応です。名前の付け方も、反応の進み方も、SN1・SN2と驚くほど似ています。
この記事では、まず反応速度式・機構の証拠・立体化学の違いを押さえ、次にどちらのアルケンができるか、E1とE2のどちらが起こりやすいかを、教科書や論文の実測の生成物比を使って説明します。最後に、E1に特有のアルコールの脱水と転位、置換反応との競合、判定の例題とよくある間違いを扱います。
E2は脱離(Elimination)の二分子反応、E1は一分子反応を意味します。SN1・SN2と同じく、この4つの呼び名は1930年代半ばにHughesとIngoldが導入したものです1。脱離反応の代表的な機構には、2つの結合(C–Hと、炭素と脱離基の結合)がどの順番で切れるかによって、E1・E2と、もう1つのE1cbの3つがあります2。
| E2 | E1 | |
|---|---|---|
| 進み方 | 一段階(協奏的) | 二段階 |
| 速度式 | rate = k[基質][塩基] | rate = k[基質] |
| 中間体 | なし | カルボカチオン |
| 塩基の強さ | 強塩基で進みやすい | 弱塩基でも進む |
| C–H結合が切れる段階 | 律速段階(唯一の段階) | 律速段階のあと |
| 立体化学の要件 | アンチペリプラナーの配置 | ほとんど無い |
E2では、塩基がβ水素を引き抜くのと同時に、脱離基が離れ、二重結合ができます。C–H結合が切れ、C=C結合ができ、脱離基が外れる、の3つが1つの段階で起こり、中間体はありません3。水酸化物イオンやアルコキシドイオンのような強い塩基でハロゲン化アルキルを処理したときに起こる、最もよく見られる脱離の経路です3。
図2のように、E2のエネルギーの山(遷移状態)は1つだけです。その山に基質と塩基の両方が関わるので、反応速度は両方の濃度に比例します(rate = k[RX][塩基])3。
E1ではまず基質がイオン化してカルボカチオンができ、その後、塩基がβ水素をプロトンとして引き抜いて二重結合ができます2。最初のイオン化は、SN1の最初の段階とまったく同じです4。2段目でプロトンを受け取るのは強い塩基でなくてよく、水やエタノールのような溶媒の分子でも務まります(図3)。
律速段階はカルボカチオンができる最初の一段階であり、反応全体の速さは、ほぼ「カルボカチオンがどれだけできやすいか」(基質の構造・脱離基の外れやすさ・溶媒)で決まります。図4のように山が2つあり、間の谷がカルボカチオン中間体です。
カルボカチオンのできやすさは、第三級 > 第二級 > 第一級の順です。SN1と全く同じカルボカチオン中間体を経るため、SN1とE1は同じ条件下で競争して起こります。弱い塩基のもとでは、基質が第三級であるほど、E1(およびSN1)が有利になります。強い塩基があれば、第三級の基質でもE2が優勢になります(4節)。
カルボカチオンのもう1つの重要な性質が、平面構造であることです。正電荷を持つ炭素はsp2混成で、3つの置換基が同一平面上、120°の角度で並びます。その平面に垂直な向きに、電子の入っていない空のp軌道が残ります。
カルボカチオンができた時点で、脱離基はもう外れています。残ったβ位のC–H結合を空のp軌道と平行にそろえる必要はありますが、単結合を回すだけで済みます。次の章で見るE2とは対照的に、E1には特定の配座に固定される制約がほとんどありません4。
E2とE1の区別は、まず速度式に表れます。E2は基質と塩基の両方について一次(全体で二次)、E1は基質についてだけ一次で、この違いはそれぞれ「律速段階に塩基が関わる」「律速段階は基質だけの解離」という機構と合っています3,4。
もう1つの証拠が、重水素の速度同位体効果です。C–D結合はC–H結合より約5 kJ/mol(1.2 kcal/mol)強いので、C–H結合が律速段階で切れる反応では、水素を重水素に置き換えると反応が遅くなります3。塩基による1-ブロモ-2-フェニルエタンからのHBrの脱離は、β位を重水素化した化合物からのDBrの脱離より7.11倍速く進みます3。C–H結合の切断が律速段階に含まれていることを示し、速度式とあわせて、E2が一段階で進むという考え方と合う結果です3。
一方、E1にはこのような重水素の同位体効果が見られません4。C–H(またはC–D)結合が切れるのは、律速段階(カルボカチオンができる段階)のあとだからです。
E2には、SN2の裏側攻撃と同じように、幾何学的な制約があります。引き抜かれるβ水素と脱離する基が、アンチペリプラナー(anti-periplanar、二面角がほぼ180°。IUPACの定義では±150°〜180°の範囲5。反位配座とも呼ばれます)と呼ばれる配置をとるとき、E2は最も進みやすくなります。
この配置が有利な理由は、脱離が起こる瞬間に、切れるC–H結合とC–LG結合が、できあがるπ結合と同時に重なり合う必要があるためです。この重なりは、H・2つの炭素・LGの4つの原子が同じ平面に並んだときに最もよくなります3。同じ平面に並ぶ配置には、二面角180°のアンチペリプラナーのほかに、二面角0°のシンペリプラナー(syn-periplanar)もあります。しかし0°では2つの炭素の置換基が重なり形になってエネルギーが高いため、E2はふつうアンチペリプラナーの配置で進みます3。構造の制約でアンチペリプラナーがとれない場合には、synの脱離が観測された例もあります6。
この図のような、単結合を真正面から見る描き方(Newman投影式)と、二面角によってエネルギーがどう変わるかについては、有機分子の立体配座の記事で扱っています。
図5・図6を見比べると、E1とE2で立体化学的な要件が大きく違う理由がよく分かります。E1では脱離基が先に外れるため配座の制約がほとんどなく、E2はアンチペリプラナーの配座をとれるかどうかで進みやすさが大きく変わります。
アンチペリプラナーの要件があるので、E2では、脱離基と反対側のβ炭素に水素が1つしかないとき、出発物の立体配置によってできるアルケンのE/Zが1つに決まります。このように、立体異性体ごとに決まった立体異性の生成物を与える性質を立体特異性といいます。
1,2-ジブロモ-1,2-ジフェニルエタンがその例です。meso体を塩基で処理すると、E2でE体のアルケンだけができます3。一方、(1S,2S)体からは、(Z)-1-ブロモ-1,2-ジフェニルエテンができます3。
図7のNewman投影式で、HとBrを除いた残りの4つの基を見てください。HとBrが抜けると、2つの炭素の残りの置換基は、配座の位置関係を保ったまま二重結合の平面に並びます。meso体では、手前に残るBrと奥のPhが反対側(180°)にあるので、二重結合をはさんで反対側に並び、E体になります。(1S,2S)体では同じ2つの基が隣り合う(60°)ので、同じ側に並んでZ体になります。Z体をmeso体から作るにはシンペリプラナーの配置で脱離するしかなく、エネルギーが高いので、ふつうは起こりません3。
一方、β炭素に水素が2つあるときは、どちらの水素もアンチペリプラナーの位置をとれるので、E/Zは1つに決まらず、大きな置換基どうしが反対側に並んだ安定なtrans体が多くできる傾向があります。たとえば2-ブロモブタンの脱離では、trans-2-ブテンがcis体の6倍できます6。
シクロヘキサン環の上では、アンチペリプラナーの要件が「HとBrがどちらもアキシアル」という条件になり、どの水素が抜けるかが環の配座で決まります。これは立体配座の記事の5節と位置選択性の記事(メンチルクロリドとネオメンチルクロリドの対比)で扱っています。
β水素が複数の炭素についている場合、どの水素が引き抜かれるかによって、できるアルケンの種類が変わります。この選択性を決める代表的な規則が、Zaitsev則とHofmann則です。Zaitsev則は1875年にロシアの化学者Zaitsevがまとめたもので、塩基によるハロゲン化アルキルの脱離では、置換基の多いアルケンが主生成物になる、という経験則です2。
| 規則 | できるアルケン | 条件 |
|---|---|---|
| Zaitsev則 | より置換基の多い(安定な)アルケン | かさ高くない塩基(NaOH、NaOEtなど) |
| Hofmann則 | より置換基の少ないアルケン | かさ高い塩基(KOtBuなど)、脱離基が第四級アンモニウム基のとき |
たとえば、2-ブロモブタンをナトリウムエトキシドのエタノール溶液で処理すると、2-ブテンが81%、1-ブテンが19%でき、2-ブロモ-2-メチルブタンでは、2-メチル-2-ブテン(Zaitsev生成物)が70%、2-メチル-1-ブテン(Hofmann生成物)が30%になります2。ところが、tert-ブトキシドのようなかさ高い塩基を使うと、2-ブロモ-2-メチルブタンからでも2-メチル-1-ブテンが主生成物(72.5%)になります7。
かさ高い塩基は、より込み合った内側のβ水素に近づきにくく、外側の空いた水素を引き抜きやすいためです。塩基だけでなく脱離基の種類(第四級アンモニウム基など)によっても置換基の少ないアルケンが多くなることがあり、実測の生成物比がどう入れ替わるかは位置選択性の記事で扱っています。
E1は、カルボカチオンからプロトンが外れる段階に配座の制約がほとんど無いので、基本的にZaitsev則に従い、より安定なアルケンを与えます4。E1とE2で生成物が入れ替わる例がメンチルクロリドです。E1の条件(80%エタノール水溶液、薄い塩基)では、置換基の多い3-メンテンが68%、2-メンテンが32%できますが、E2の条件(100%エタノール中の強い塩基)では、アンチペリプラナーの要件のために2-メンテンだけ(100%)ができます4。
E1とE2のどちらが優勢になるかは、おもに塩基の強さと基質の構造で決まり、脱離基と溶媒がそれを後押しします。まず全体を表3にまとめ、そのあとで1つずつ理由を見ていきます。
| 条件 | E2優勢 | E1優勢 |
|---|---|---|
| 塩基 | 強い塩基(HO−・RO−など)、濃度が高いほど速い | 強い塩基がない、または濃度が低い(水・アルコールなどの溶媒がプロトンを受け取る) |
| 基質 | 第一級・第二級・第三級のどれでも起こる(第一級はかさ高い強塩基のとき) | 第三級(安定なカルボカチオンができる基質) |
| 脱離基 | どちらも、外れやすい脱離基ほど速い | |
| 溶媒 | ― | 極性プロトン性溶媒(イオン化を助ける) |
2つの機構で理由の付き方が違うことを先に押さえておくと、表3が覚えやすくなります。E2の速さはおもに「塩基がどれだけβ水素を引き抜けるか」で決まり、E1の速さはおもに「カルボカチオンがどれだけできやすいか」で決まります。これはSN2とSN1の関係とそっくりです。
E1はカルボカチオンを経るので、SN1と同じく、安定なカルボカチオンができる第三級の基質で起こりやすく、カルボカチオンが不安定な第一級の基質では起こりにくくなります。教科書の目安でも、第一級のハロゲン化アルキルにE1は挙がっていません8(5-2節の塩化ネオペンチルのように、含水ギ酸のような強くイオン化させる条件では起こる例もあります)。第三級アルコールの脱水がE1で速く進むのも、安定な第三級カルボカチオンを経るためです9。
E2は、SN2と違って第三級の基質でも問題なく起こります。塩基が攻撃するのは込み合った炭素ではなく、外側にあるβ水素だからです。実際、教科書の目安では、第三級のハロゲン化アルキルは塩基があればE2を起こします8。第二級の基質は強い塩基があればE2、第一級の基質は、立体的にかさ高い強塩基を使うとSN2よりE2が優勢になります8。
E2は律速段階に塩基が関わるので、塩基の強さと濃度が速さに直接効きます。速度式(rate = k[RX][塩基])のとおり、塩基の濃度を2倍にすればE2の速さも2倍になります3。一方、E1の速さは塩基の濃度に左右されません4。
そのため、強い塩基を高い濃度で使えばE2が優勢になり、第三級のように安定なカルボカチオンができる基質を、強い塩基を加えずに水やアルコールのような弱い塩基(溶媒)の中で反応させるとE1が起こります。第三級の基質で比べると、エトキシドのような強い塩基のもとではE2、エタノールや水だけの中性の条件ではSN1とE1が一緒に起こります8。
脱離基は、E2では唯一の段階で、E1では律速段階で外れていきます3,4。そのため、どちらの機構でも外れやすい脱離基ほど反応が速くなります。どの基が外れやすいか(弱い塩基ほど良い脱離基)は、SN1・SN2の記事の脱離基の節と同じ考え方です。アルコールのOHは、そのままではどちらの機構でも外れにくいので、5節で見るようにプロトン化してから外します。
溶媒は、とくにE1に効きます。E1の最初の段階はSN1と同じイオン化なので、SN1と同じ理由で、カルボカチオンと脱離基を溶媒和して安定にする極性プロトン性溶媒(水・アルコール)が有利です。E1とSN1は、ハロゲン化アルキルをプロトン性溶媒中で塩基性の弱い求核剤と反応させたときに一緒に起こります4。溶媒がイオン化を速める仕組みは、SN1・SN2の記事の溶媒の節で扱っています。
E1はカルボカチオンを経るので、カルボカチオンに特有の現象がついて回ります。ここでは、E1の代表的な使い道であるアルコールの脱水と、骨格の組み替わりを伴う転位を見ます。
第三級アルコールから水が外れてアルケンができる反応(酸触媒の脱水)は、E1の代表例です。酸でアルコールの酸素がプロトン化されると、OHが –OH2+ になり、中性の水として一分子的に外れてカルボカチオンができます。そこからプロトンが外れてアルケンになります9。
この方法は第三級アルコールでとくによく進みます9。たとえば1-メチルシクロヘキサノールを温めた酸の水溶液で処理すると、1-メチルシクロヘキセンが91%の収率で得られます(図8)9。酸触媒の脱水は、ふつうZaitsev則に従います9。
第一級・第二級のアルコールは酸に対してずっと反応しにくく、第二級アルコールを脱水するには75%硫酸・100 °Cのような厳しい条件が要ります9。そこで、塩基性の穏やかな条件で脱水する方法として、オキシ塩化リン(POCl3)をピリジン中で使う方法があります。OHがジクロロリン酸エステル(–OPOCl2)という外れやすい基に変わり、この脱水はE2で進みます9。同じ「アルコールの脱水」でも、条件によってE1とE2が使い分けられているわけです。
E1はカルボカチオンを経るので、SN1と同じく、より安定なカルボカチオンへの転位(1,2-水素移動・1,2-アルキル移動)が起こりえます。転位したカルボカチオンからプロトンが外れれば、出発物と炭素骨格の違うアルケンができます。たとえば塩化ネオペンチルを含水ギ酸中で反応させると、骨格の組み替わったアルコールとアルケンの混合物になります10。転位の仕組みは、SN1・SN2の記事の4節で扱っています。
E2はカルボカチオンを経ないので、この種の転位は起こりません。生成物のアルケンの骨格が出発物と違っていたら、カルボカチオン(E1・SN1)を経たことを疑う手がかりになります。
実際の反応では、脱離(E1・E2)と置換(SN1・SN2)が競争して起こります。求核剤の多くは塩基でもあるので、炭素を攻撃すれば置換、β水素を引き抜けば脱離になるためです2。教科書では、ハロゲン化アルキルの級ごとに次のような目安が挙げられています8。
| 基質 | おもな反応 |
|---|---|
| 第一級 | 良い求核剤ならSN2。立体的にかさ高い強塩基ならE2 |
| 第二級 | 塩基性の弱い求核剤を極性非プロトン性溶媒中で使うとSN2。強塩基ならE2 |
| 第三級 | 塩基があればE2。エタノールや水だけの中性の条件ではSN1とE1が一緒に起こる |
第三級の基質を中性の条件に置いたときにSN1とE1が一緒に起こるのは、どちらも同じカルボカチオンを経るためです。たとえば2-クロロ-2-メチルプロパンを80%エタノール水溶液中、65 °Cで温めると、2-メチルプロパン-2-オール(SN1)と2-メチルプロペン(E1)が64 : 36の混合物で得られます4。
置換の側の詳しい話(求核剤の強さ・溶媒の効き方・立体反転)はSN1反応とSN2反応の違いで扱っています。
ここまでの判断の仕方を、5つの例題で練習してみましょう。どの例でも、まず塩基(強い塩基があるか)→ 基質の級 → どのβ水素が抜けるか、の順に見ていきます。
答え: E2で、主生成物は2-メチル-2-ブテン(Zaitsev生成物)。エトキシドは強い塩基なので、第三級の基質でもE2が優勢です8。エトキシドはかさ高くないので、置換基の多いアルケンが多くでき、2-メチル-2-ブテンと2-メチル-1-ブテンが70 : 30になります2,7。
答え: E2で、主生成物は2-メチル-1-ブテン(Hofmann生成物)。基質と機構は例題1と同じですが、tert-ブトキシドはかさ高く、込み合った内側のβ水素(CH2の水素)に近づきにくいので、外側のメチル基の水素を引き抜きます。置換基の少ない2-メチル-1-ブテンが72.5%になります7。
答え: E1で、生成物は1-メチルシクロヘキセン(図8)。強い塩基はなく、OHがプロトン化されて水として外れ、安定な第三級カルボカチオンができます。プロトンはおもに置換基の多いアルケンを与える側から外れます9。
答え: E2で、生成物は(Z)-1-ブロモ-1,2-ジフェニルエテン(図7の下)。E2はアンチペリプラナーの配座から進むので、出発物の立体配置からアルケンのE/Zが1つに決まります3。meso体ならE体になる(図7の上)点と見比べておきましょう。
答え: SN1とE1。強い塩基はなく、第三級の基質がイオン化してカルボカチオンができます。そこへ水が結合すれば2-メチルプロパン-2-オール(SN1)、プロトンが外れれば2-メチルプロペン(E1)で、64 : 36の混合物になります4。同じ基質でも、例題1のように強い塩基を加えればE2が優勢になります8。
Q1. E1とSN1が同じ条件下で競争して起こりやすいのはなぜですか?
A1. どちらも同じカルボカチオン中間体を経由する反応だからです。カルボカチオンができた後、塩基・求核剤がβ水素を引き抜けばE1、炭素そのものを攻撃すればSN1になります。
Q2. E2がアンチペリプラナーの配置で進みやすいのはなぜですか?
A2. 脱離の瞬間に、切れるC–H結合とC–LG結合が、新しくできるπ結合と同時に重なり合う必要があり、この重なりは4つの原子が同じ平面に並んだときに最もよくなるためです。同じ平面に並ぶ配置のうち、二面角0°(シンペリプラナー)は置換基が重なり形になって不利なので、ふつうは180°のアンチペリプラナーの配置で進みます。
Q3. かさ高い塩基を使うとHofmann生成物ができやすいのはなぜですか?
A3. かさ高い塩基は、込み合った内側のβ水素に近づきにくいため、立体障害の少ない外側の水素を優先的に引き抜くからです。その結果、より置換基の少ないアルケンができます。
Q4. β水素を重水素に置き換えると、E2は遅くなりますが、E1の速さはほとんど変わりません。なぜですか?
A4. C–D結合はC–H結合より強く、切れにくいからです。E2ではC–H結合が律速段階(唯一の段階)で切れるので遅くなりますが、E1でC–H結合が切れるのは律速段階(カルボカチオンができる段階)のあとなので、速さにはほとんど影響しません。
Q5. 同じ第三級の基質でも、エトキシドを加えるとE2、エタノールだけではE1(とSN1)になるのはなぜですか?
A5. E2の速さは塩基の濃度に比例し、強い塩基ほど速いので、強い塩基があればE2が速く進みます。強い塩基がないと、E2は遅くなり、塩基に関係なく進むイオン化(E1・SN1の律速段階)が優勢になります。
Q6. meso-1,2-ジブロモ-1,2-ジフェニルエタンのE2で、E体のアルケンだけができるのはなぜですか?
A6. E2はHとBrがアンチペリプラナーの配座から進み、残りの置換基はその配座の位置関係を保ったままアルケンになるからです。meso体のこの配座ではBrと反対側の炭素のPhが反対側に並ぶので、E体になります。Z体を作るにはシンペリプラナーの配置が必要で、エネルギーが高いため、ふつうは起こりません。
Q7. アルコールを酸で脱水するとき、骨格の違うアルケンができることがあるのはなぜですか?
A7. 第三級アルコールなどの酸触媒の脱水はE1で進み、カルボカチオンを経るからです。カルボカチオンが水素やアルキル基の1,2-移動でより安定なカルボカチオンに転位してからプロトンを失うと、出発物と骨格の違うアルケンになります。
判断の順番は、まず強い塩基があるかを見てE2かE1かの見当をつけ、基質の級とβ水素の位置・立体配置で生成物を決め、最後に置換との競合とカルボカチオンの転位を疑う、の3段階です。E2の速さは「塩基がβ水素を引き抜けるか」、E1の速さは「カルボカチオンができるか」という2つの軸に戻って考えると、表を丸暗記しなくても多くの場合を説明できます。
なお、脱離反応にはもう1つ、塩基がプロトンを先に引き抜いてカルボアニオンを経るE1cb機構があります。OH基のように、塩基性の条件ではE1・E2で外れにくい基でも、カルボニル基の隣の水素のように引き抜かれやすい水素があれば、カルボアニオンを経るこの第3の経路で脱離できます。