E/Z表記とは、二重結合の両端の原子それぞれについて、ついている2つの基にCIP順位則で優先順位をつけ、優先順位の高い基どうしが同じ側にあればZ、反対側にあればEとする表し方です1。
cis/transは「同じ種類の基」が同じ側か反対側かで決めるので、使える分子が限られます。IUPACの2013年勧告では、優先IUPAC名ではE/Zを使い、一般名で二重結合にcis/transを使うのは各炭素に水素が1つずつある二重結合に限られます(カロテノイドの命名は別で、5節で扱います)1。基準が違うので、cisがZ、transがEになるとは限りません。
二重結合は、室温ではほとんど回転できません。
これは、以前混成軌道の記事で触れたπ結合の性質でした。回転できないからこそ、二重結合の両側にどの基がついているかで、別々の分子(異性体)が生まれます。この異性体を区別する表記が、cis/transとE/Zです。
この記事では、まずcis/transの限界と、E/Zの決め方(CIP順位則の使い方)を説明します。次に、二重結合が2つある分子や炭素以外の原子を含む二重結合、環の中の二重結合での書き方と、cis/transが今も使われる場面を扱います。後半では、cis体とtrans体で安定性や沸点がどう違うかを見たうえで、例題とよくある間違いで決め方を確かめます。
高校の化学では、まずcis(シス)・trans(トランス)という表記を習います。二重結合の両側にある基が、同じ側にあればcis、反対側にあればtransです。
2-ブテンの2つのメチル基は、二重結合の同じ側にも反対側にも置けます。二重結合が回転できないので、この2つは自然には入れ替わらず、別々に取り出せる化合物です2。このような異性体をcis/trans異性体と呼びます(幾何異性体と呼ばれることもあります)。互いに鏡像ではない立体異性体なので、ジアステレオマーの一種です(6節)。
cis/trans異性体ができるのは、二重結合のどちらの炭素にも、異なる2つの基がついているときです。片方の炭素に同じ基が2つついていると(たとえば2-メチルプロペンの=C(CH3)2)、反対側の基をどちらに置いても同じ分子になり、異性体はできません2。
この表記は、2-ブテンのように、両端の炭素に「同じ種類の基」が1つずつある分子ではうまく機能します。
cis/transの命名がそのまま使えるのは、二置換のアルケンだけです3。三置換・四置換のアルケンでは、より一般的な方法が必要になります3。どの基とどの基を比べるのかが決まらないからです。たとえば四方向すべてが異なる基でできた二重結合には、そもそも「どちらと同じ側か」を言う基準がありません。IUPACも、一般名で二重結合にcis/transを使うのは、各炭素に水素が1つずつある(1,2-二置換の)場合に限るとしています1。
この問題を解決するのが、大学以降で習うE/Z表記です。R/S表記の記事で紹介したCIP順位則を、そのまま二重結合の両端に当てはめます。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 二重結合の片方の炭素につく2つの基に、CIP順位則で優先順位をつける |
| 2 | もう片方の炭素につく2つの基にも、同様に優先順位をつける |
| 3 | 両方の炭素で、優先順位が高い基どうしが同じ側にあればZ、反対側にあればE |
Zはドイツ語のzusammen(一緒に)、Eはentgegen(反対に)に由来します1。
なお、IUPACの2013年勧告では、二重結合の配置を優先IUPAC名(PIN)で表すときはE/Zを使い、cis/transは使いません1。PINでは二重結合の位置番号を記述子の前に付けて(2Z)-but-2-eneのように書き、cis-but-2-eneは一般名として使えます1。
図1のcis-2-ブテンで確認してみましょう。それぞれの炭素には、メチル基と水素(骨格式では省略)がついています。どちらの炭素でも、メチル基(C)の方が水素(H)より優先順位が高いため、優先順位の高い基どうし(メチル基どうし)を比べればよく、これは図1でも同じ側にあります。zusammenなのでZ、つまり(Z)-2-ブテンです。
2-ブテンのように、二重結合の炭素に直接ついている原子が違えば、優先順位はすぐ決まります。E/Zで迷うのは、直接ついている原子が同じときです。ここでは、優先順位のつけ方を3つの段階に分けて整理します。
①直接ついている原子の原子番号で比べる。原子番号が大きい方が上位です1,3。たとえば–Clは–CH3より上位、–CH3は–Hより上位です3。
②同じなら、その先についている原子の組で比べる。直接ついている原子が同じときは、そこからさらに1つ先の原子を見て、最初に差がつくところまで進みます3。先の原子は3つの組として扱い、それぞれを原子番号の大きい順に並べてから、1番目どうし、2番目どうし…と比べます。たとえば–CH2OHと–CH(CH3)2は、直接ついている原子はどちらもCですが、その先の組は(O, H, H)と(C, C, H)で、1番目のOがCより大きいので–CH2OHが上位です3。
③二重結合・三重結合は、相手の原子が重なってついているとみなす。多重結合の原子は、同じ数の単結合でつながった原子と同じに扱います3。たとえば–CH=Oの炭素は、Oとの二重結合を「Oが2つついている」と読みかえて(O, O, H)とします。このとき足した「重複原子」には、その先にさらに原子がついているとはみなさず、原子番号0の仮の原子(ファントム原子)が3つついているとして扱います1。
| 比べる基 | 先の原子の組 | 上位 | 決め手 |
|---|---|---|---|
| –CH2Cl と –C(CH3)3 | (Cl, H, H) と (C, C, C) | –CH2Cl | 1番目どうしでCl > C。数の多さや大きさではない |
| –CH(CH3)2 と –CH2CH2Br | (C, C, H) と (C, H, H) | –CH(CH3)2 | 2番目どうしでC > H。差がついたらBrはもう見ない |
| –CH=O と –CH2OH | (O, O, H) と (O, H, H) | –CH=O | 二重結合のOを2つと数える(③) |
| –CH=CH2 と –CH(CH3)2 | (C, C, H) と (C, C, H) | –CH=CH2 | 引き分け。さらに先で、=CH2の炭素の組(C, H, H)がメチル基の(H, H, H)より上 |
| –C≡CH と –CH=CH2 | (C, C, C) と (C, C, H) | –C≡CH | 三重結合の相手を3つと数える(③) |
表2の4行目は少し込み入っています。–CH=CH2の最初の炭素は、相手の炭素と重複原子で(C, C, H)、–CH(CH3)2の最初の炭素も(C, C, H)で、ここでは差がつきません。そこで1つ先へ進み、上位の枝どうしを比べます。–CH=CH2では、本物の=CH2の炭素の先が(C, H, H)(Cは最初の炭素の重複原子)、–CH(CH3)2ではメチル基の炭素の先が(H, H, H)なので、–CH=CH2が上位になります。このように、比べる枝の順番も上位のものからです1。
なお、同位体の違い(重水素Dと水素Hなど)は、①〜③の原子番号での比較を先まで進めても差がつかないときに初めて使い、質量数の大きい方を上位とします1。直接ついている炭素が質量数13の同位体だからといって、それだけで上位にはなりません。
優先順位は、置換基の大きさ(体積)や原子の数では決まりません。表2の1行目のように、小さな–CH2Clの方が、かさ高いtert-ブチル基より上位です。また、原子番号を足し合わせて比べるのでもありません。最初に差がついたところで、それより先は見ずに決まります3。
この3つの段階は、R/S表記の記事で不斉炭素の4つの基に順位をつけるときとまったく同じです。違うのは、E/Zでは二重結合の炭素ごとに2つの基だけを比べればよい点です。
2-ブテンの例では、たまたまcisとZが一致しました。ですが、この一致はいつも成り立つわけではありません。図3の2-クロロ-2-ブテンで確かめてみましょう。
| 炭素 | ついている基 | 優先順位が高い方 | 位置 |
|---|---|---|---|
| 左(C2) | Cl, メチル基 | Cl | 下側 |
| 右(C3) | メチル基, H | メチル基 | 上側 |
2つのメチル基はどちらも上側にあるので、「メチル基どうしで見れば」cisのように見えます。ですが、左の炭素で優先順位が高いのはメチル基ではなくClです。優先順位が高い基どうし(Clと右のメチル基)を比べると、片方は下側、もう片方は上側で、反対側にあります。
したがって図3の化合物は、メチル基どうしが同じ側にあっても(E)-2-クロロ-2-ブテンです。cisは「どの基とどの基を比べるか」を人が選ぶ見た目の表記、Zは「CIP順位則で選んだ基どうし」で決まる表記で、基準が違います。なお、この分子は片方の炭素に水素が無いので、IUPACの勧告ではそもそもcis/transで呼ばない分子です1。
逆に、2つのメチル基を反対側に置いた異性体は、Clと右のメチル基が同じ側に来るので(Z)体です(7節の例題5)。「transに見えるのにZ」ということも起こります。
E/Zは、炭素どうしの二重結合1つだけのための表記ではありません。ここでは、名前を書くときに迷いやすい3つの場合を見ます。
立体を決められる二重結合が2つ以上あるときは、二重結合ごとにE/Zを決め、それぞれの前に二重結合の位置番号を付けて、番号の小さい順に並べます1。
図4のヘキサ-2,4-ジエンは左右対称なので、どちらの端から番号を付けても二重結合の位置番号は2と4になります。このようなときは、最初に差がつくところでcis(Z)の二重結合に小さい番号が来る向きを選びます1。そこでZの二重結合がある右端をC1とします。
C2=C3の二重結合を見ると、C2についた上位の基はC1(メチル基)、C3についた上位の基はC4です。この2つは同じ側なのでZです。C4=C5では、上位の基C3とC6が反対側なのでEです。合わせて(2Z,4E)と書きます。英語の名前では(2Z,4E)-hexa-2,4-dieneです。左端から番号を付けた(2E,4Z)も同じ分子を指しますが、IUPACの規則で選ばれるのは(2Z,4E)の方です。
IUPACの勧告には、同じ形の書き方の例として(2Z,4E)-octa-2,4-dieneや(3Z,5E)-octa-3,5-diene(cisの二重結合に小さい番号)、(2E,4Z)-hexa-2,4-dienoic acidが挙がっていて、一般名では2-cis,4-trans-octa-2,4-dieneのようにcis/transを位置番号と並べる書き方も示されています1。
オキシム(C=N–OH)やアゾ化合物(N=N)のように、炭素以外の原子を含む二重結合にもE/Zを使います1。窒素には、基が1つと非共有電子対が1組ついています。非共有電子対は原子番号0として扱うので、窒素の側では、どんな基でも非共有電子対より上位になります1。
図5のアセトアルデヒドオキシムでは、炭素の側はメチル基と水素でメチル基が上位、窒素の側はOHと非共有電子対でOHが上位です。この2つが反対側なら(E)体、同じ側なら(Z)体です。以前はこうした二重結合にsyn/antiやcis/transも使われましたが、IUPACは現在これらを勧めていません1。アゾベンゼン(ジフェニルジアゼン)の異性体も、cisではなく(Z)と書きます1。
シクロヘキセンのように環に含まれる二重結合について、IUPACの勧告では、三員環から七員環までの単環の二重結合はcisの配置をもつものとして扱い、Zやcisの記述子は書かないことになっています1。
八員環から先は、環の二重結合がcisにもtransにもなり得るので、優先IUPAC名ではE/Zを付けます1。たとえば(E)-cyclooctene((E)-シクロオクテン)は、勧告に例として載っている化合物です1。
優先IUPAC名では二重結合にE/Zを使いますが、cis/transが無くなったわけではありません。今も次のような場面で使われます。
cis-but-2-ene)のような名前は、一般名として使えます1。環のcis/transは、2つの置換基どうしの相対的な関係を表す記述子です。たとえば図6のtrans体には(1R,2R)体と(1S,2S)体の2つのエナンチオマーがあり、transだけではどちらかまでは決まりません(cis体は鏡映面をもつメソ化合物で、1つに決まります)。優先IUPAC名では、相対配置を表すときもcis/transではなく、R/Sにrelを付けた書き方が勧められています1。環のcis/transと、いす形でのアキシアル・エクアトリアルの関係は、立体配座の記事の4節で扱っています。
cis体とtrans体は、同じ原子が同じ順につながった分子なのに、別の化合物として性質が違います。ジアステレオマーは、互いに鏡像ではない立体異性体のことで4、鏡像の関係にあるエナンチオマーと違って、沸点や融点などの物理的な性質も異なります(分子間力の記事)。
2-ブテンでは、trans体の方が安定です。cis体では2つのメチル基が同じ側で近づき、立体的な反発(立体ひずみ)が生じるためです5。
| 比べた量 | cis-2-ブテン | trans-2-ブテン |
|---|---|---|
| 水素化のΔH°(kJ/mol) | −119 | −115 |
| 室温で平衡にしたときの割合(%) | 24 | 76 |
強い酸を触媒にしてcis体とtrans体を行き来させ、平衡にすると、trans体 : cis体はおよそ76 : 24になります。この比から、室温でtrans体はcis体より2.8 kJ/mol安定と見積もられます5。
水素化(水素が付いて同じブタンになる反応)で出る熱で比べても、cis体の方が約4 kJ/mol多く熱を出します(ΔH°がより負)。同じ生成物になるのに多く熱を出すのは、出発のcis体のエネルギーが高いからで、平衡から求めた2.8 kJ/molとおおむね合っています5。
沸点や融点も、cis体とtrans体で違います。
| 化合物 | 沸点(°C) | 融点(°C) |
|---|---|---|
| cis-2-ブテン | 3.7 | −138.9 |
| trans-2-ブテン | 0.9 | −105.5 |
| cis-1,2-ジクロロエテン | 60 | −80.0 |
| trans-1,2-ジクロロエテン | 47.6 | −49.8 |
どちらの組でも、沸点はcis体が高く、融点はtrans体が高くなっています。1,2-ジクロロエテンでは、cis体は2本のC–Cl結合の分極が足し合わされて分子が双極子をもち、trans体では打ち消し合います。この違いと、融点が沸点と同じ順にならない理由は、分子間力の記事の3-2節で扱っています。
二重結合のまわりで回転するには、π結合をいったん切らなければなりません。そのため回転の障壁は、少なくともπ結合の強さと同じくらい大きくなります2。エタンの単結合の回転の障壁が12 kJ/molしかないのとは大きな違いです2。
このためcis体とtrans体は、ふつうの条件ではそれぞれ別の化合物として安定に存在します。ただし、まったく入れ替わらないわけではありません。6-1節で見たように、強い酸を触媒にすると2-ブテンのcis体とtrans体を行き来させられます5。
光で入れ替わる例が、私たちの目の中にあります。網膜の桿体細胞では、11-cis-レチナールがタンパク質のオプシンと結びついて、光に感じる物質ロドプシンになっています7。光が当たるとC11–C12の二重結合がcisからtransに異性化し、その形の変化が神経の信号になって脳に伝わります7。この異性化は、光が無いとおよそ1100年かかるのに、光があると2 × 10−13秒以内に起こると見積もられています7。
ここまでの決め方を、5つの例題で練習してみましょう。どの例でも、①二重結合の左右の炭素それぞれで上位の基を決め、②その2つが同じ側か反対側かを見ます。
答え: E。C2ではメチル基(C1)が水素より上位です。C3にはメチル基とエチル基がついていて、直接ついている原子はどちらもCです。その先の組はメチル基が(H, H, H)、エチル基が(C, H, H)なので、エチル基が上位です。C1とエチル基は反対側にあるのでEです。2つのメチル基は同じ側にあるので、メチル基どうしで見るとcisに見えますが、E体です。
答え: E。C3ではメチル基(C4)が水素より上位です。C2には–CHOと–CH2OHがついていて、どちらも直接の原子はCです。その先の組は–CHOが二重結合のOを2つと数えて(O, O, H)、–CH2OHが(O, H, H)なので、2番目の原子で–CHOが上位になります(表2の3行目)。–CHOとC4のメチル基は反対側にあるのでEです。
答え: Z(C3=C4の二重結合)。C1=C2は末端の=CH2なので立体はありません。C4ではエチル基が水素より上位です。C3にはビニル基(–CH=CH2)とイソプロピル基がついていて、表2の4行目のとおりビニル基が上位です。ビニル基とエチル基は同じ側にあるのでZです。英語の名前では(3Z)-3-(propan-2-yl)hexa-1,3-dieneです。
答え: Z。四方向がすべてハロゲンです。cis/transなら2つのBrどうしを比べたくなりますが、E/Zでは各炭素の上位の基を比べます。C1ではBr(原子番号35)がCl(17)より上位、C2ではI(53)がBr(35)より上位です。BrとIは同じ側にあるのでZです。この化合物は、IUPACの勧告に(1Z)-1,2-dibromo-1-chloro-2-iodoetheneとして例が挙がっています1。2つのBrは反対側にありますが、transとは呼べません。
答え: Z。図3の異性体で、こちらは2つのメチル基が反対側にあります。C2ではClがメチル基より上位、C3ではメチル基が水素より上位で、Clと右のメチル基は同じ側にあります。メチル基どうしで見るとtransに見えますが、Z体です。
Q1. cis/trans表記で名前をつけられなくなるのは、どのような場合ですか?
A1. 二重結合の炭素に水素が1つずつではない、三置換・四置換のアルケンのような場合です。どの基とどの基を比べるのかが決まらないためで、IUPACも一般名で二重結合にcis/transを使うのは各炭素に水素が1つずつある場合に限るとしています(カロテノイドの命名は別)。
Q2. E/Zを決めるとき、何を基準に「同じ側」を判断しますか?
A2. 各炭素についている2つの基の中で、CIP順位則により優先順位が高い方の基どうしを比較します。優先順位が高い基どうしが同じ側ならZ、反対側ならEです。
Q3. 図3の分子で、2つのメチル基が同じ側にあるのに(E)体になるのはなぜですか?
A3. 左の炭素では、メチル基よりCl(原子番号17)の方が優先順位が高いためです。優先順位が高い基どうし(Clと右のメチル基)を比べると反対側にあるため、Eになります。
Q4. –CH(CH3)2と–CH2CH2Brでは、どちらが上位ですか?
A4. –CH(CH3)2です。直接ついている原子はどちらもCで、その先の組は(C, C, H)と(C, H, H)です。2番目の原子でC > Hと差がつくので、その先にあるBrは比べません。
Q5. –CH=CH2の炭素の「先の原子の組」はどう数えますか?
A5. 二重結合の相手の炭素を2つと数えて(C, C, H)とします。足した炭素(重複原子)の先には、原子番号0の仮の原子がついているとみなします。
Q6. オキシムのC=N結合でE/Zを決めるとき、窒素の側はどう比べますか?
A6. 窒素には基(オキシムならOH)と非共有電子対がついています。非共有電子対は原子番号0として扱うので、OHが上位です。
Q7. シクロヘキセンの名前にZを付けないのはなぜですか?
A7. IUPACの勧告では、三員環から七員環までの単環の二重結合はcisの配置をもつものとして扱い、記述子を書かないことになっているからです。環の二重結合にE/Zを付けるのは八員環以上です。
Q8. 2-ブテンでtrans体の方が安定なのはなぜですか? また、それはどんな数値から分かりますか?
A8. cis体では2つのメチル基が同じ側で近づき、立体ひずみが生じるからです。酸触媒で平衡にするとtrans : cisがおよそ76 : 24になり、水素化で出る熱もcis体の方が約4 kJ/mol多い(ΔH°がより負)ことから分かります。
なお、単結合の方は回転できるので、その回転で移り変わる形(立体配座)は別の話になります。こちらは有機分子の立体配座の記事で扱っています。
ここで扱ったcis/trans・E/Zは、あくまで「二重結合まわりの、固定された立体配置」を表す表記です。これに対して、たとえばエポキシドの開環反応のように、反応で不斉炭素の立体配置が反転したり保持されたりする話は、R/S表記の記事の内容とつながります。
cis/transとE/Zの違いは、実際に優先順位を書き出しながら確認しないと定着しにくいところです。似たような分子をいくつか自分で描いて、優先順位を比べる練習をしてみてください。