アルデヒドとケトンは、カルボニル基(C=O)を持つ化合物の中でもっとも基本的なものです。水・アルコール・アミン・シアン化物イオン・ヒドリド・グリニャール試薬と、さまざまな求核剤がカルボニル炭素に付加します。
生成物は、アルコール・ヘミアセタール・シアノヒドリン・アセタール・イミンとばらばらに見えます。しかし、どの反応も「付加で止まる」か「付加したあとでカルボニル酸素が水として外れる」かのどちらかです。この記事では、その分かれ目と、反応が可逆かどうかを決めているものを、求核剤の側から整理します。
C=O結合は酸素の側に電子が偏っていて、カルボニル炭素は正に分極しています。求核剤はこの炭素を、真横ではなく斜めから攻撃します(向きの理由はフロンティア軌道論の記事で扱っています)。
攻撃と同時にC=Oのπ電子が酸素の上へ押し出され、カルボニル炭素は4本の単結合を持つ四面体形の炭素になります。この段階でできるのが、酸素に負電荷を持つ四面体形のアルコキシドの中間体です1(アミンのような中性の求核剤では、窒素が正電荷を持つ双性イオンになります)。
ここまでは、エステルやアミドの求核アシル置換とまったく同じです。違いはその先にあります。カルボン酸誘導体では、四面体中間体からCl−やRO−などの脱離基が外れ、C=Oが作り直されました。
アルデヒドやケトンのカルボニル炭素には、水素かアルキル基しか付いていません。これらが外れるならH−やR−という非常に強い塩基として外れることになり、実際には外れません2。
脱離基が無いので、四面体中間体の行き先は2つに分かれます1。1つは、酸素がプロトンを受け取ってOH基になり、付加で止まる道です。もう1つは、酸触媒のもとでそのOH基がさらにプロトン化されて水として外れ、炭素と求核剤の原子(窒素や酸素)の間に二重結合ができる道です。
2つ目の道に進めるのは、求核剤の原子に、付加したあとも非共有電子対が残っていて、水を押し出せる場合です。第一級アミンでは、できたイミニウムイオン(C=N+HR)の窒素からプロトンが外れてイミンになり、アルコールではできた陽イオンに2分子目のアルコールが付加してアセタールになります。
アルデヒド・ケトンの反応の種類が多いのは、脱離基が無いぶん、四面体中間体の行き先を求核剤と反応条件が決めるからです。逆戻りするかどうかは求核剤で決まり(2節)、水が抜けるところまで進むかどうかは求核剤と酸触媒・水の除去といった条件で決まります(3節)。同じアルコールでも、酸触媒が無い条件ではヘミアセタールとの平衡より先へは進まず、酸触媒のもとで水を除けばアセタールまで進みます。
カルボニル炭素は平面の三方向に結合しているので、求核剤は面の表と裏のどちらからでも近づけます。2-ブタノンのように置換基の異なるケトンに、キラルでない試薬で付加すると新しい不斉炭素ができますが、表と裏からの攻撃は同じ確率で起こるので、生成物はラセミ体になります。α炭素がすでに不斉炭素のときに表と裏の差が生じる話は、Felkin–Anhモデルで扱っています。
水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)と水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)は、ヒドリドイオン(H−)を渡す求核剤のようにふるまいます。できたアルコキシドは、あとでプロトンを受け取ってアルコールになります2。アルデヒドからは第一級アルコール、ケトンからは第二級アルコールが得られる、還元の反応です3。
NaBH4によるアルデヒド・ケトンの還元は1949年にChaikinとBrownが4、LiAlH4による還元はその2年前にNystromとBrownが報告しました5。NaBH4は空気中で量り取れ、水やアルコールの溶液で使えます。LiAlH4ははるかに反応性が高く、水と激しく反応するので、エーテルやTHFの中で使います3。
グリニャール反応も同じ型です。マグネシウムイオンがカルボニル酸素に配位してカルボニル基を活性化し、R−にあたる炭素がカルボニル炭素に付加します。できたマグネシウムアルコキシドは、水や希酸で処理するとアルコールになります2。
ヒドリドやグリニャール試薬の付加は、実質的に逆戻りしません。逆向きに進むには、アルコキシドからH−やR−を追い出さなければならず、どちらも外れにくすぎるからです2。R−の共役酸にあたるアルカンのpKaは、メタンで約50(推定)です(pKaの記事の表1)。
水がアルデヒドやケトンに付加すると、1つの炭素にOH基が2つ付いた水和物(gem-ジオール)ができます。この反応は可逆で、gem-ジオールは水を失ってもとのカルボニル化合物に戻れます6。
中性の水の付加は遅いのですが、塩基でも酸でも速くなります。塩基は水を、より強い求核剤である水酸化物イオンに変えます。酸はカルボニル酸素をプロトン化して、カルボニル炭素をより強い求電子剤に変えます6。これは、求核アシル置換の記事で見た塩基性条件と酸触媒の2つの役割と同じです。
平衡の位置はカルボニル化合物によって大きく違います。ホルムアルデヒドの水溶液では99.9%が水和物ですが、アセトンの水溶液では水和物は約0.1%(表2の値からは約0.2%)しかありません6。この差がどこから来るのかは、4節で扱います。
アルコールが付加すると、1つの炭素にOH基とOR基が付いたヘミアセタール(R2C(OH)OR')ができます7。この付加も可逆で、ふつうはカルボニル化合物の側に平衡が偏っています8。
ただし、同じ分子の中にOH基とカルボニル基があり、五員環や六員環のヘミアセタールを作れる場合は別です。たとえばグルコースは、水溶液中ではほとんどが環状のヘミアセタールとして存在します8。どのような環になるかは、立体電子効果の記事で扱っています。
シアン化水素(HCN)が付加すると、同じ炭素にOH基とシアノ基が付いたシアノヒドリンができます9。純粋なHCNだけでは反応は遅く、少量の塩基を加えて求核剤のシアン化物イオン(CN−)を作ると速く進みます。1900年代のはじめに、Lapworthはこの反応が可逆で、塩基に触媒されることを示しました10,11。
図3の最後の段階で、アルコキシドはHCNからプロトンを受け取ります。HCNのpKaは9.21(25 °C)で12、一般的なアルコール(エタノールで15.9)よりずっと強い酸です。そのためこのプロトン移動は右へ進み、CN−が再生して次のカルボニル化合物を攻撃します。塩基が少量で足りるのはこのためです。
アセトンのシアノヒドリンの生成は、平衡定数が28 L/mol(20〜25 °C)で、HCNの濃度が高い条件ではシアノヒドリンの側に偏ります。それでも逆反応は起こり、アセトンシアノヒドリンは加熱したり塩基を加えたりすると、アセトンとHCNに分解します12。アセトンシアノヒドリンは、アクリル樹脂の原料になるメタクリル酸メチルを合成する中間体として、大量に使われています12。
2-1と2-2の違いを表1にまとめました。付加の逆反応は、アルコキシドから求核剤が外れる反応です。求核剤が弱い塩基なら外れることができ、付加は可逆になります。H−やR−のような非常に強い塩基は外れられないので、付加は一方通行になります。
| 求核剤(試薬) | 生成物 | 共役酸(pKa) | 可逆性 |
|---|---|---|---|
H−(NaBH4など) | アルコール | H2(非常に弱い酸) | 実質的に不可逆 |
R−(RMgX) | アルコール | アルカン(メタンで約50、推定) | 実質的に不可逆 |
水・OH− | 水和物 | H2O(14.0) | 可逆 |
アルコール・RO− | ヘミアセタール | エタノール(15.9) | 可逆 |
CN−(HCN+塩基) | シアノヒドリン | HCN(9.21) | 可逆 |
表1の水・エタノール・メタンのpKaはpKaの記事で採った値、HCNは25 °Cの値です12。
「アルデヒド・ケトンへの付加は可逆なものが多い」とまとめると、半分だけ正しいことになります。可逆なのは水・アルコール・シアン化物イオンのように、外れることのできる求核剤の付加です。還元やグリニャール反応では、ふつうの条件でアルコキシドからH−やR−が外れる逆反応は起こりません(アルコールをカルボニル化合物に戻すには、酸化という別の反応が必要です)。
酸触媒の条件で、第一級アミンやアルコールを求核剤にすると、付加のあとに続きがあります。付加体のOH基が酸でプロトン化され、水として外れて、炭素と窒素(または酸素)の間に二重結合を持つ陽イオンができます1。
ここで外れているのは、もとのカルボニル酸素です。そのままならOH−という強い塩基として外れなければなりませんが、プロトン化されてOH2+になれば、弱い塩基である水として外れることができます。隣の窒素や酸素の非共有電子対が、それを押し出します。
求核アシル置換では、最初から炭素に付いていた基(Cl・ORなど)が脱離基でした。アルデヒド・ケトンでは脱離基が無いので、カルボニル酸素そのものを酸でプロトン化して、脱離基に作り変えています。これはFischerエステル化で、四面体中間体のOH基をOH2+にして水として外したのと同じ手です。
第一級アミン(RNH2)はアルデヒドやケトンと反応して、炭素と窒素の二重結合を持つイミン(R2C=NR)になります13,14。まず、アミンの窒素の非共有電子対がカルボニル炭素を攻撃し、窒素から酸素へプロトンが移って、同じ炭素にOH基とアミノ基が付いた付加体ができます(図4)。
この付加体をIUPACはヘミアミナールと呼んでいます。有機化学の教科書でよく見るカルビノールアミンという名前は、IUPACでは不適切な呼び方とされています15。
後半では、酸触媒がヘミアミナールのOH基をプロトン化します。窒素の非共有電子対がC–N結合の側へ移りながら水を押し出し、炭素と窒素の二重結合を持つイミニウムイオンができます。最後に窒素上のプロトンが外れて、イミンになります(図5)14。
実際の例として、ベンズアルデヒドとアニリンを触媒なしで混ぜてかき混ぜると、数秒で発熱が起こり、水が分離してきます。この方法で、イミンのベンザルアニリンが84〜87%の収率で得られます16。
イミンの生成は、弱酸性(pH 4〜5付近)でもっとも速く、それより塩基性でも酸性でも遅くなります14。塩基性では、ヘミアミナールのOH基をプロトン化する酸が足りず、水が外れる段階が進みにくくなります。強い酸性では、アミンのほとんどがプロトン化されてアンモニウムイオンになり、非共有電子対を持たないので求核剤として働けません。
ヒドロキシルアミンやセミカルバジドのようにNH2基を持つ化合物も、同じ型の反応でオキシムやセミカルバゾンになります。これらの生成の機構は、Jencksが詳しく調べました17。
第二級アミン(R2NH)の場合は、イミニウムイオンの窒素に外せる水素がありません。そのかわりに、隣の炭素(α炭素)の水素がプロトンとして外れ、炭素どうしの二重結合に窒素が付いたエナミン(R2N–CR=CR2)になります14,18。
酸触媒のもとでアルデヒドやケトンにアルコールを加えると、2-2節のヘミアセタールで止まらず、もう1分子のアルコールと反応してアセタール(R2C(OR')2)になります8,19。ケトンから作ったものはケタールと呼ばれることもあり、IUPACはこれをアセタールの下位分類として扱っています20。
ヘミアセタールまでは、プロトン化されたカルボニル基へのアルコールの付加です。そこから先は、ヘミアセタールのOH基がプロトン化され、隣の酸素の非共有電子対に押し出されて水が外れます。できた陽イオンに2分子目のアルコールが付加し、プロトンが外れてアセタールになります(図6)8。
図6の途中でできる陽イオン(R2C=O+R)は、オキソカルベニウムイオンと呼ばれます(オキソニウムイオンと書く教科書もあります8)。正電荷は、炭素と酸素の間の二重結合を持つ共鳴形では酸素に、酸素が単結合の共鳴形では炭素にあり、実際はその中間です(すべての原子がオクテットを満たすC=O+の共鳴形の寄与が大きいとされます)。図5のイミニウムイオンと同じく、隣の原子の非共有電子対が陽イオンを安定化しています。
アセタールは、エーテルと同じように塩基・ヒドリド還元剤・グリニャール試薬に対して安定で、酸の水溶液で切れます8。そのためアルデヒドやケトンの保護基として使われ、とくにエチレングリコールとの環状アセタールがよく使われます。実例は官能基相互変換の記事の保護基の節にあります。
アセタールの生成は、すべての段階が可逆です。水を取り除く条件にすると平衡が右へ進み、大過剰の水と酸触媒で処理すると逆にもとのカルボニル化合物に戻ります8。イミンの生成も可逆で、イミンは水で加水分解されてカルボニル化合物とアミンに戻ります14。
実験では、できた水を系の外へ出して平衡を偏らせます。たとえばシクロヘキサノンとモルホリン(第二級アミン)からエナミンを作る手順では、少量のp-トルエンスルホン酸を加えたトルエン溶液を、水分離器を付けて加熱還流します。水の分離はすぐに始まり、4〜5時間でやみます21。
このような水分離器は、DeanとStarkが石油中の水分を量るために考案した装置にちなんで、ディーン・スターク装置と呼ばれます22。水より軽いトルエンなどの溶媒と一緒に蒸発した水が、冷やされて受け器の底にたまり、溶媒だけが反応容器に戻ります。
「カルボニル酸素が水として外れるので不可逆に進む」は誤りです。外れた水は、同じ経路を逆にたどってイミニウムイオンやオキソカルベニウムイオンに付加できます。アセタールが酸の水溶液で外せる(保護基として使える)のも、イミンが水で加水分解されるのも、そのためです。生成物の側へ進めているのは、水を取り除くという条件の工夫です。
一般に、アルデヒドはケトンより求核付加を受けやすいとされています。理由は立体と電子の2つです1。
付加が平衡になる水和では、この違いが平衡定数にはっきり表れます(表2)。
| 化合物 | カルボニル炭素の置換基 | Khyd | 水和物の割合(およそ) |
|---|---|---|---|
| ホルムアルデヒド | H・H | 2000 | 99.9%以上 |
| アセトアルデヒド | H・CH3 | 1.2 | 約半分 |
| プロパナール | H・CH2CH3 | 0.85 | 半分弱 |
| アセトン | CH3・CH3 | 0.002 | 約0.2% |
アセトアルデヒドとプロパナールの値は、文献によって少し違います(アセトアルデヒドはおよそ1.1〜1.4、プロパナールは0.71〜0.85)23。ここでは、それらをまとめた表の推奨値を載せました。どの値をとっても、ホルムアルデヒド・アルデヒド・ケトンの順に水和物が大きく減るという傾向は変わりません。
水素をメチル基に1つ替えるたびに、平衡定数はおよそ六百分の一から千七百分の一になっています。付加でカルボニル炭素の結合角が120°から約109.5°に狭まり(混成軌道の記事)、置換基どうしが近づくことが、置換基の大きい側で不利に効きます。そのうえアルキル基は、出発物のカルボニル基を電子的に安定にしています。
逆に、カルボニル基の隣に電子求引基があると、水和物の側に偏ります。ピルビン酸(CH3COCOOH)はケトンですが、隣のカルボキシ基の電子求引のために、平衡で60%が水和物になっています6。
ベンズアルデヒドのような芳香族アルデヒドは、脂肪族のアルデヒドより反応しにくくなります。芳香環がカルボニル基と共役し、共鳴効果で電子を供与して、カルボニル炭素の正の分極を弱めるためです1。
立体の効果は、ケトンどうしでもはっきり表れます。シクロヘキサノンはシアノヒドリンをよい収率で与えますが、カルボニル基の両隣にメチル基が3つ付いた2,2,6-トリメチルシクロヘキサノンでは、シアノヒドリンがうまく得られません(OpenStaxの19.6節の演習問題)10。
表2は平衡の位置の比較で、反応の速さそのものではありません。ただ、立体と電子の効果は付加の遷移状態にも同じ向きに効くので、還元やグリニャール反応のような不可逆な付加でも、アルデヒドの方がケトンより速く反応するのがふつうです。
Q1. シクロヘキサノンにNaBH4を作用させてできたシクロヘキサノールは、付加の逆反応でシクロヘキサノンに戻ることはありません。一方、シクロヘキサノンのシアノヒドリンは、塩基を加えるとシクロヘキサノンに戻ります。この違いはどこから来ますか。
A1. 付加の逆反応は、アルコキシドから求核剤が外れる反応です。シアン化物イオンは弱い塩基(共役酸のHCNのpKaは9.21)なので外れることができ、シアノヒドリンの生成は可逆です。少量の塩基は正逆どちらの反応も速めますが、塩基が多いと、系中のHCNが中和されてシアン化物イオンに変わるので、「ケトン+HCN ⇌ シアノヒドリン」の平衡もケトンの側へ移ります。ヒドリド(H−)は非常に強い塩基で外れられないので、還元は逆戻りしません。
Q2. イミンの生成は、pH 1の強い酸性でもpH 10の塩基性でも遅く、pH 4〜5付近でもっとも速く進みます。それぞれの理由を説明してください。
A2. 強い酸性では、アミンのほとんどがプロトン化されてアンモニウムイオンになり、非共有電子対が無いのでカルボニル炭素を攻撃できません。塩基性では、ヘミアミナールのOH基をプロトン化する酸が足りないので、OH基が水として外れる段階が進みにくくなります。弱酸性では、攻撃できる遊離のアミンと、OH基をプロトン化する酸の両方がそろいます。
Q3. ケトンをエチレングリコールとの環状アセタールにしておくと、グリニャール試薬やLiAlH4と反応しなくなり、あとで酸の水溶液で処理するとケトンに戻せます。これを機構の言葉で説明してください。
A3. アセタールの炭素には、アルデヒド・ケトンのような正に分極したC=Oが無く、エーテルの酸素が2つ付いているだけなので、塩基性・求核性の試薬は攻撃できません。一方、アセタールの生成はすべての段階が可逆なので、大過剰の水と酸触媒があると、酸素のプロトン化・アルコールの脱離・水の付加を逆にたどって、もとのケトンに戻ります。
Q4. ホルムアルデヒド・アセトアルデヒド・アセトンを、水溶液中で水和物の割合が大きい順に並べ、理由を2つ挙げてください。
A4. ホルムアルデヒド>アセトアルデヒド>アセトンの順です(水和の平衡定数は約2000、約1、約0.002)。1つは立体的な理由で、付加でカルボニル炭素が四面体形になると置換基どうしが近づくので、置換基が大きく多いほど水和物が不利になります。もう1つは電子的な理由で、アルキル基はカルボニル炭素の正の分極を和らげて出発物を安定にするので、アルキル基が多いほど付加の駆動力が小さくなります。
Q5. アセトンには脱離基がありません。それなのに、酸触媒とメタノールでアセタールにすると、もとのカルボニル酸素は分子から外れています。何が脱離基になったのですか。
A5. もとのカルボニル酸素が、プロトン化されて水(H2O)として外れています。ヘミアセタールのOH基が酸触媒でプロトン化されてOH2+になると、弱い塩基である水として外れられるようになり、隣のメトキシ基の酸素の非共有電子対がそれを押し出します。脱離基は最初からあったのではなく、酸触媒が作り出したものです。
アルデヒドとケトンへの求核付加は、脱離基が無いことから出発して整理できます。四面体中間体は、プロトンを受け取って付加で止まるか、第一級アミンやアルコールのような求核剤では、酸触媒のもとでカルボニル酸素を水として外して二重結合を持つ陽イオンを経由します。付加が逆戻りするかどうかは求核剤が外れられるかどうかで決まり、水が抜ける反応も可逆なので、水を取り除いて平衡を偏らせます。
炭素求核剤として働くのはグリニャール試薬だけではありません。エノラートがアルデヒドやケトンに付加するのがアルドール反応で、付加で止まったものがアルドール付加、そのあと水が抜けて炭素どうしの二重結合ができたものがアルドール縮合です。ただし、塩基性条件のアルドール縮合で水が抜ける機構(E1cb機構)は、この記事で見た酸触媒による脱水とは別のものです。