「この塩基ならこの水素を引き抜ける」「この条件ならこちらが先に外れる」——反応機構を追っていると、こうした判断が何度も出てきます。その判断を支えているのが酸性度と塩基性度で、どちらもpKaという1つの数字で、50桁以上に広がる強さの幅を並べて比べられます。
酸・塩基の定義そのものは酸と塩基の定義の記事で扱いました。今回はその先、強さをどう数字にするのか、そしてその差が分子のどこから来るのかを、具体例とあわせて見ていきます。
ブレンステッド・ローリーの定義では、酸はプロトン(H+)を手放す傾向を持つ分子種、塩基はプロトンを受け取る傾向を持つ分子種です。ここで大事なのは「傾向」という言葉で、どちらになるかは相手との組み合わせで決まります。
では、なぜある分子は水素を手放せるのでしょうか。出発点はH-X結合の分極です。Xの電気陰性度が水素より大きいと、結合電子はX側に偏り、水素はわずかに正(δ+)を帯びます。
この結合が切れるとき、結合電子対はまるごとX側が持っていくことができます。残るのは電子を1個も持たない裸のH+、つまりプロトンです。
塩基の側は逆で、非共有電子対やπ電子を持ち、それをプロトンに差し出せる分子種が塩基になります。水の酸素、アミンの窒素、アルケンのπ結合などがその例です。
「酸」「塩基」は物質に貼り付いた固定のラベルではありません。水はHClが相手なら塩基、NH3が相手なら酸として振る舞います(両性)。この記事で扱う「強さ」も、あくまで相手を水にそろえたときの比較だと考えてください。
どんなブレンステッド・ローリー酸塩基反応も、次の1つの形に書けます。
B: + H-A ⇌ B-H+ + A−
プロトンを渡したHAが酸、その残りのA−が共役塩基。プロトンを受け取ったBが塩基、受け取った姿のBH+が共役酸です。
酢酸が水に溶けたときの平衡で確かめてみます。酢酸のカルボキシ基から水へプロトンが1つ移る反応です。
O-Hの水素を攻撃し、O-H結合の電子対は酸素側へ移る。プロトンを渡した酢酸が酸、受け取った水が塩基で、生成物はそれぞれの共役塩基・共役酸にあたる。この反応では、CH3COO−(酢酸イオン)が酢酸の共役塩基、H3O+(オキソニウムイオン)が水の共役酸です。共役のペアは必ず2組そろいます。
矢印を逆向きに読めば、酢酸イオンが塩基、オキソニウムイオンが酸として働いていることになります。どちらの向きが優勢かは、2つの酸のどちらが強いかで決まります。
「共役塩基」は「弱い塩基」という意味ではありません。ある酸からプロトンが1個抜けた化学種を指す関係の名前で、強いか弱いかはまた別の話です。強い酸の共役塩基は弱い塩基、弱い酸の共役塩基は強い塩基になります。
なお、この枠組みはプロトンが動く反応にしか使えません。AlCl3やBF3のように電子対の授受で定義されるルイス酸には共役塩基にあたる相手がなく、pKaの物差しがそのままは使えません。ルイス酸の強さは、相手の塩基との組み合わせまで含めて考える必要があり、HSAB則のような別の枠組みが使われます。
酸HAが水中でどれだけ解離するかは、酸解離定数Kaで表します1。
HA + H2O ⇌ A− + H3O+
Ka = [A−][H3O+] / [HA]
溶媒である水は濃度がほとんど変わらないため、慣例としてこの式には入れません。
ところがKaの値は、強い酸と弱い酸で50桁以上も開きます。そこでpHと同じ発想で対数をとり、pKa = −log10Kaとして扱います。
pKaが小さいほどKaが大きく、酸として強い——この向きだけは取り違えないようにしてください。
| 化合物 | 酸性プロトン | pKa |
|---|---|---|
オキソニウムイオン H3O+ | O-H | 0.0 |
フッ化水素 HF | H-F | 3.17 |
酢酸 CH3COOH | O-H(カルボン酸) | 4.76 |
硫化水素 H2S | S-H | 7.00 |
アンモニウムイオン NH4+ | N-H | 9.24 |
フェノール C6H5OH | O-H(フェノール) | 9.99 |
水 H2O | O-H | 14.0 |
エタノール CH3CH2OH | O-H(アルコール) | 15.9 |
アセトン CH3COCH3 | C-H(α水素) | 19.2 |
アセチレン HC≡CH | ≡C-H | 約25(推定) |
アンモニア NH3 | N-H | 約38(推定) |
メタン CH4 | C-H | 約50(推定) |
表の「推定」は目安です。水中で直接測定できるのは、おおよそpKaが0から14の範囲に限られます。これより強い酸はどれも水の中で完全に解離してしまい、差がつかなくなるためで、これを水平化効果と呼びます。表のエタノール(15.9)とアセトン(19.2)13もこの範囲の外側にあり、ふつうの滴定ではなく工夫した方法で求められた値です。範囲の外側の値は、別の溶媒での測定値や反応速度からの外挿なので、出典によって数値がずれます。
このpKaは、溶液のpHと組み合わせると「いま分子がどちらの姿でいるか」を教えてくれます。酢酸について、pHごとの解離の割合を計算してみます。
pHの関係。pHがpKaと一致する点でちょうど半分が解離し、そこからpHが2動くと、どちらか一方が約99 %を占めるようになる。1908年にHendersonが導き、後に対数の形に書き直された関係式2,3を使うと、この曲線は次のように書けます。
pH = pKa + log([A−] / [HA])
pH = pKaのとき[A−] = [HA]、つまりちょうど半分が解離します。pHがpKaより小さければHAのまま、大きければA−として存在するのが多数派になります。
ここから、酸性度の議論を言い換えることができます。よく解離するということは、生じたA−——つまり共役塩基——がその負電荷を無理なく受け止められる、ということです。
共役塩基が安定なほど、その酸の酸性度は高くなります。酸性度の比較は、共役塩基の安定性の比較に置き換えられます。
水のpKaは、出典によって14.0と15.7が混在しています。多くの有機化学の教科書は1960年代から15.7(とH3O+の−1.7)を載せてきましたが、この組は標準状態の取り方を誤ったもので、熱力学的に正しいのは14.0と0.0です4。ACS有機化学部会が公開しているpKa表も14.0/0.0に改められています5。この記事では14.0を採用しています。
では、共役塩基の安定性は何で決まるのでしょうか。代表的な5つの要因を順に見ていきます。
同じ周期の中で比べるなら、これがもっとも大きな要因です。表1のCH4・NH3・H2O・HFを並べてみます。
共役塩基はそれぞれCH3−・NH2−・OH−・F−で、負電荷を担う原子の電気陰性度が上がるほど、その電荷を受け止めやすくなります。pKaは約50から3.17まで、47近く下がります。Kaにすると、47桁近い差です。
ところが、同じ族を下に下がるときは話が逆になります。水(pKa 14.0)と硫化水素(pKa 7.00)を比べると、電気陰性度は酸素の方が大きいのに、硫化水素の方が7桁も強い酸です。
理由は原子の大きさです。S−はO−より一回り大きく、同じ1個ぶんの負電荷でも広い体積に分散できるため、イオンとして安定になります。
「電気陰性度が大きいほど酸性度が高い」が成り立つのは、同じ周期の中で比べるときだけです。族を下に下がるときは原子の大きさが効き、順序が逆転します。ハロゲン化水素でも同じで、HFだけが弱酸(pKa 3.17)で、HCl・HBr・HIは水中で完全に解離する強酸です。
どちらもO-Hを持つエタノール(pKa 15.9)7と酢酸(pKa 4.76)では、pKaが11ほど違います。酸の強さ(Ka)にして11桁もの差です。共役塩基を並べると理由が見えます。
酢酸イオンの負電荷は、共鳴によって2個の酸素へ非局在化します。電荷が1か所に集中しないぶん安定で、だから酢酸はエタノールよりはるかに解離しやすいわけです。
同じ理由で、フェノール(pKa 9.99)はエタノールより6桁強い酸になります。共役塩基のフェノキシドイオンでは、負電荷が芳香環のオルト位・パラ位まで広がれるためです。エノラートが安定な理由も、これとまったく同じ共鳴効果です。
同じC-Hでも、炭素の混成が変わると酸性度が大きく動きます。
C-Hの酸性度。s性が25 %・33 %・50 %と上がるにつれてpKaが下がる。いずれも水中では測定できないため、外挿による推定値。脱プロトンして生じるカルボアニオンの非共有電子対は、その炭素の混成軌道に入ります。s軌道はp軌道より原子核の近くに電子を保つため、s性の高い軌道に入った電子対ほど安定です。
アセチレンのpKa 25は、アルコールの16よりまだ大きく、酸としては弱い部類です。それでも酸の強さ(Ka)にしてアルカン(pKa 約50、推定)より約25桁強いので、末端アルキンはNaNH2(アンモニアのpKaは約38)で脱プロトンできます。
同じ理屈は窒素の塩基性にも当てはまります。ピリジンの非共有電子対はs性の高いsp2混成軌道に入っているため、脂肪族アミンよりずっと弱い塩基です。詳しくは芳香族性とヒュッケル則の記事で扱っています。
電気陰性度の大きい原子が近くにあると、σ結合を通じて負電荷の一部を引き受け、共役塩基を安定化します。これが誘起効果で、酪酸の2位・3位・4位にClを置いたpKaの比較が分かりやすい例です。
共鳴との違いは距離依存性で、誘起効果はσ結合を1本またぐごとに急激に減衰します。
ここまでの5つは、どれも「共役塩基の安定性」という同じ土俵の上にある要因ですが、効き方の大きさはそろっていませんし、常に同じ向きに働くとも限りません。実際の分子では複数が同時に効いていて、どれが勝つかは組み合わせ次第です。さらに、水とDMSOのように溶媒が変わると、化合物によっては順序そのものが入れ替わります8。1つの要因だけを見て結論を出さないことが大切です。
塩基の強さも、同じpKaの物差しに載せられます。塩基Bそのものではなく、その共役酸BH+のpKaを見るのが便利な流儀です(pKaHと書くことがあります)。
pKaHが大きい = 共役酸がプロトンを手放しにくい = Bがプロトンを強くつかむ = 強い塩基。
Kbを使う流儀もありますが、水中では、共役酸BH+のpKaと塩基BのpKbの間にpKa + pKb = 14.0の関係があるので、どちらでも同じ情報です。反応機構を追うときは、酸も塩基も1本の物差しに載るpKaHの方が扱いやすくなります。
窒素を含む代表的な塩基で比べてみます。
| 塩基 | 分類 | pKaH |
|---|---|---|
| エチルアミン | 脂肪族アミン | 10.63 |
| アンモニア | — | 9.24 |
| アニリン | 芳香族アミン | 4.63 |
| アセトアミド | アミド | 約 −0.5(酸素でプロトン化) |
エチルアミンがアンモニアよりわずかに強いのは、エチル基の電子供与(+I効果)が、生じたアンモニウムイオンの正電荷を分散させるためです。
アニリンは、そこから6桁も落ちます。窒素の非共有電子対が芳香環のπ系へ非局在化しており、プロトン化するとその非局在化を失ってしまうためです。フェノールが酸として強かったのと表裏の関係にあります。
アセトアミドの窒素は、さらに弱い塩基です。窒素の電子対が隣のカルボニル基へ強く流れ込んだ形が安定なので、プロトンに差し出す余裕がほとんど残っていないのです。
アミドが実際にプロトン化されるのは、窒素ではなくカルボニル基の酸素の側です10。酸素側でプロトン化すれば、窒素からの電子供与をそのまま保てるためで、表2の−0.5はその酸素プロトン化に対する値です。窒素より有利な酸素側で比べても、アニリンよりpKaHが5.1小さく、アミドはほとんど塩基として働きません。
ここから、強い塩基の作り方も見えてきます。弱い酸(pKaが大きい酸)の共役塩基ほど強い塩基なので、NaOEt(エタノール、15.9)よりNaNH2(アンモニア、約38)の方がはるかに強い塩基だと、表1を見るだけで予想できます。
ただし、脂肪族アミンを第一級・第二級・第三級と並べたときの順序は、水中では誘起効果だけでは説明できません。アンモニウムイオンが水素結合で水に取り囲まれて安定化する度合い(溶媒和)も同時に効いていて、アルキル基が増えるとその水素が減るためです。「アルキル基が多いほど強い塩基」と単純化しないよう注意してください。
pHと同じ向きだと考えると覚えやすくなります。H2OよりH2Sの方が強い酸になります。DMSOでの値は別物です。表のどれを引いているのか、いつも確認してください。Q1. pKa 4.76の酢酸とpKa 15.9のエタノールでは、どちらの共役塩基の方が強い塩基ですか。
A1. エトキシドイオン(エタノールの共役塩基)です。弱い酸ほど共役塩基が強い塩基になります。酢酸イオンは負電荷が2個の酸素へ共鳴で非局在化して安定なぶん、プロトンを奪い返す力が弱くなります。
Q2. H2O(pKa 14.0)よりH2S(pKa 7.00)の方が強い酸なのはなぜですか。電気陰性度は酸素の方が大きいはずです。
A2. 同じ族を下に下がると、原子の大きさが効いてくるためです。硫黄は酸素より大きく、共役塩基HS−の負電荷を広い体積に分散できるので、イオンとして安定になります。電気陰性度で酸性度を比べられるのは同じ周期の中だけです。
Q3. アニリンのpKaHが4.63と、エチルアミンの10.63より6も小さい(塩基として約100万分の1の強さしかない)のはなぜですか。
A3. アニリンでは窒素の非共有電子対が芳香環のπ系へ非局在化しており、プロトン化するとその安定化を失うためです。電子対がプロトンに使われにくいぶん、塩基として弱くなります。
pKaは、覚える数字というより、共役塩基がどれだけ楽に負電荷を持てるかを1つの軸に写し取った目盛りです。電気陰性度・原子の大きさ・共鳴・s性・誘起効果という5つの見方は、そのままどの水素が先に抜けるかやどの化学種が脱離基になるかの判断にも使えます。数値そのものより、「どちらの共役塩基が安定か」を構造から読む習慣の方が、長く役に立つはずです。