IRスペクトル(赤外吸収スペクトル)とは、分子に赤外線を当てたとき、どの波数の光がどれだけ吸収されたかを示したグラフです。吸収は、分子の中の結合が伸び縮みしたり曲がったりする振動によって起こり、どの波数を吸収するかは結合の種類ごとにおおよそ決まっています1,2。
読み方の基本は、4000〜1500 cm⁻¹の特徴的な吸収で官能基の有無を確かめ、それより低い指紋領域は照合に使う、という順番です。この記事では、まず吸収の位置と強さが何で決まるかを押さえ、次に官能基ごとの吸収波数、カルボニル基(C=O)の種類の見分け方、水素結合による形の違いを扱います。最後に、読む手順を例題で練習し、よくある間違いをまとめます。
結合の振動は、バネにつながった2つのおもりのイメージに近いものです2。分子は決まった振動数でしか伸び縮みできず、当てた赤外線の振動数が結合の振動数と一致したときだけ、そのエネルギーが吸収されます1。吸収された振動数を調べれば、分子にどんな結合(官能基)があるかが分かります。
横軸には波数(波長の逆数で、単位は cm⁻¹)を取ります1。有機化合物の測定に使う範囲は4000〜400 cm⁻¹で、エネルギーにすると48.0〜4.80 kJ/molに当たります1。横軸は、左から右へ向かって波数が小さくなる向きで描かれるのが慣例です。縦軸は透過率(%T)で、吸収が起こった波数では、グラフが下向きに凹みます。
バネのたとえを式にすると、2つの原子(質量 m1、m2)が力の定数 k のバネでつながった振動の振動数 ν は、次のようになります3。
ν = (1/2π)√(k/μ) μ = m1m2/(m1 + m2)(換算質量)
波数はこの振動数を光速で割った値なので、同じ形の式に従います。力の定数 k(結合の強さ)が大きいほど、換算質量 μ が小さいほど、吸収は高い波数に現れます。この式から、IRスペクトルの大まかな並びが説明できます。
質量だけを変えた例が、水素を重水素(D)に置き換えたC–D結合です。同位体に置き換えても力の定数はほとんど変わらず、変わるのは換算質量だけです3。原子の質量をC 12.000、H 1.008、D 2.014として計算すると、μはC–Hの0.930からC–Dの1.725に増え、振動数は√(0.930/1.725)≒0.73倍になります。アルキルのC–H(2850〜2960 cm⁻¹)を当てはめると、C–Dの吸収はおよそ2090〜2170 cm⁻¹と見積もれます。
一方、C–H結合の吸収がO–H結合より低い波数側にあるのは、質量の違いでは説明できません。換算質量はむしろO–Hの方がわずかに大きく(C–H 0.930、O–H 0.948)、質量の効果だけなら逆の向きになるからです。それでもO–Hの方が高い波数に出ることから、式の上では、O–Hの方が力の定数が大きい(バネが硬い)ことが分かります。
振動によって分子の双極子モーメントが変化しないと、赤外線は吸収されません3。たとえばO2やN2の伸縮では双極子モーメントが変わらないので、赤外線を吸収しません。CO2でも、2つのC=Oが同時に伸び縮みする対称伸縮は吸収されず、片方が伸びて片方が縮む逆対称伸縮は2350 cm⁻¹付近に吸収を示します3。
この考え方で、有機化合物の吸収の強弱も理解できます。C=Oの吸収が強く鋭く出るのに対し、π結合を含むC=Cの吸収は、アルケンが左右対称(またはそれに近い)だと小さく、見分けにくくなります4。C≡Cも同じで、内部アルキンの吸収は末端アルキンに比べてずっと弱くなります4。
すべてのピークを覚える必要はありません。4000〜400 cm⁻¹を次の4つに分けると、吸収の位置を思い出しやすくなります2。
| 結合・官能基 | 波数(cm⁻¹) | 強さ・形 |
|---|---|---|
| O–H(アルコール) | 3300〜3600 | 強い、幅広い |
| N–H(第一級・第二級アミン) | 3300〜3500 | 中程度、O–Hより鋭い |
| ≡C–H(末端アルキン) | 3300 | 強い、鋭い |
| =C–H(アルケン) | 3020〜3100 | 中程度 |
| C–H(芳香環) | 3030 | 弱い |
| C–H(アルカン) | 2850〜2960 | 中程度 |
| C–H(アルデヒドのCHO) | 2700〜2760と2800〜2860 | 2本、強くない |
| O–H(カルボン酸) | 2500〜3300 | 非常に幅広い |
| C≡N(ニトリル) | 2250付近(共役すると2230付近) | 強い |
| C≡C(アルキン) | 2100〜2260 | 中程度(内部アルキンでは弱い) |
| C=O(カルボニル化合物) | 1670〜1780 | 強い、鋭い |
| C=C(アルケン) | 1640〜1680 | 中程度(対称だと小さい) |
| 芳香環 | 1450〜1600 | 中程度、数本 |
| NO2(ニトロ基) | 1540 | 強い |
| C–O(アルコール) | 1050〜1150 | 強い |
表の範囲は教科書や表によって数十 cm⁻¹ずれることがあります。たとえばアルコールのO–Hは、表12.1では3400〜3650 cm⁻¹ですが、同じ教科書の17.11節では3300〜3600 cm⁻¹とされ、位置は水素結合の程度で変わると説明されています2,5。ここでは水素結合した場合まで含む17.11節の範囲を採りました(詳しくは4節)。C=Oも、酸塩化物や酸無水物まで含めると1650〜1850 cm⁻¹に広がります8(3節)。
図1は、炭素数が同じで官能基だけが違うヘキサン・1-ヘキセン・1-ヘキシンを並べた模式図です。3つとも2850〜2960 cm⁻¹のアルキルのC–Hを持ちますが、1-ヘキセンには3100 cm⁻¹の=C–Hと1660 cm⁻¹のC=C、1-ヘキシンには3300 cm⁻¹の≡C–Hと2100 cm⁻¹のC≡Cが加わり、これで3つを見分けられます2。
C–Hは3000 cm⁻¹を境に見ると便利です。アルカンのC–Hは2850〜2960 cm⁻¹と3000 cm⁻¹のすぐ下に出るのに対し、アルケンの=C–H(3020〜3100 cm⁻¹)と芳香環のC–H(3030 cm⁻¹)はすぐ上に、末端アルキンの≡C–H(3300 cm⁻¹)はさらに高い位置に出ます2,4。ほとんどの有機化合物は飽和の部分を持つので、3000 cm⁻¹のすぐ下の吸収はほぼいつも見えます4。注目するのは、その上に吸収があるかどうかです。≡C–Hの吸収は強く鋭いので、末端アルキンの決め手になります4。
アルデヒドのCHOのC–Hには、2700〜2760 cm⁻¹と2800〜2860 cm⁻¹に2本の吸収が現れます7。この2本はアルデヒドとケトンを見分ける手がかりで、高い方は飽和のC–Hの多い化合物では隠れることがありますが、低い方はほとんどいつも見えます7。
O–HとN–Hもこの領域に出ます。どちらも位置が近く、形と本数で見分けます(4節)。
この領域に吸収を持つ官能基は少ないので、吸収があれば三重結合を疑えます。アルキンのC≡Cは2100〜2260 cm⁻¹、ニトリルのC≡Nは飽和の化合物で2250 cm⁻¹付近に強く出て、芳香環などと共役すると2230 cm⁻¹付近に下がります4,6。ただし、1-2節のとおり内部アルキンのC≡Cは弱いので、吸収が見えないからといって三重結合が無いとは言えません。
C=Oの吸収は、IRスペクトルの中で最も見つけやすい吸収です。多くは1670〜1780 cm⁻¹に鋭く強いピークとして出て(酸誘導体まで含めると1650〜1850 cm⁻¹)4,8、その位置からアルデヒド・ケトン・エステルなどのどれかまで絞り込めることが多いです4(3節)。
アルケンのC=Cは1640〜1680 cm⁻¹に出ますが2、1-2節で見たように、左右対称に近いアルケンでは小さく見落としやすい吸収です。芳香環は、1450〜1600 cm⁻¹に中程度の吸収が数本(よく1500と1600 cm⁻¹付近)、1660〜2000 cm⁻¹に弱い吸収の列を示します4,5。ニトロ基は1540 cm⁻¹に強い吸収を持ちます2。
1500 cm⁻¹より低い領域は指紋領域と呼ばれ、C–C・C–O・C–N・C–Xの単結合の振動などによる多数の吸収が重なって、分子ごとに個性的なパターンになります2。2つの試料のIRスペクトルがすべて一致すれば、ほぼ確実に同じ化合物です2(ただし、鏡像異性体どうしはふつうのIRスペクトルでは区別できません)。
この領域でも、次のような強い吸収は官能基の手がかりになります。
C=Oの吸収はどれも強く目立つので、位置の違いがそのまま官能基の違いの手がかりになります。表2と図2に、代表的なカルボニル化合物の値をまとめました。
| 化合物の種類 | 例 | C=O(cm⁻¹) |
|---|---|---|
| 酸無水物(飽和) | 無水酢酸 | 1820と1760の2本 |
| 酸塩化物(飽和) | 塩化アセチル | 1810 |
| 酸塩化物(芳香族) | 塩化ベンゾイル | 1770 |
| カルボン酸(水素結合していない単量体) | — | 1760 |
| エステル(飽和) | 酢酸エチル | 1735 |
| アルデヒド(飽和) | アセトアルデヒド | 1730 |
| エステル(芳香族) | 安息香酸エチル | 1720 |
| ケトン(飽和) | アセトン、シクロヘキサノン | 1715 |
| カルボン酸(飽和、ふつうの二量体) | 酢酸 | 1710 |
| アルデヒド(芳香族・α,β-不飽和) | ベンズアルデヒド、アクロレイン | 1705 |
| ケトン(芳香族) | アセトフェノン | 1690 |
| アミド(飽和) | アセトアミド | 1690 |
| ケトン(α,β-不飽和) | 3-ブテン-2-オン | 1685 |
| N-置換アミド | N-メチルアセトアミド | 1680 |
| N,N-二置換アミド | N,N-ジメチルアセトアミド | 1650 |
C=Oが二重結合や芳香環と共役すると、吸収は低い波数側にずれます。飽和のアルデヒド(1730 cm⁻¹)は共役すると1705 cm⁻¹付近に、飽和のケトン(1715 cm⁻¹)は1685〜1690 cm⁻¹に下がります7。カルボン酸でも共役で20〜30 cm⁻¹下がり6、エステルでも、飽和の酢酸エチル(1735 cm⁻¹)に対して芳香環と共役した安息香酸エチルは1720 cm⁻¹です8。
環状ケトンでは、環が小さいほど吸収が高くなります。シクロヘキサノンは鎖状のケトンと同じ1715 cm⁻¹ですが、シクロペンタノンは1750 cm⁻¹、シクロブタノンは1785 cm⁻¹です7。環を4員環・5員環に小さくすると、カルボニル基の角度にひずみがかかり、C=O結合が硬くなるためです4,7。
1750 cm⁻¹は飽和のエステル(1735 cm⁻¹)にも近いので、位置だけで決めず、エステルなら1300〜1000 cm⁻¹に強いC–Oの吸収があるかどうかもあわせて見ます。
カルボン酸誘導体のC=Oは、カルボニル炭素に付いた原子によって大きく上下します。酸塩化物(1810 cm⁻¹)と酸無水物(1820と1760 cm⁻¹)が高いのは、どちらもカルボニル基に電子求引性の強い基が付いていて、その誘起効果でC=O結合が短くなるためです8。エステル(1735 cm⁻¹)もアルデヒドやケトンより少し高い位置に出ます8。逆にアミド(1650〜1690 cm⁻¹)が低いのは、窒素からカルボニル基へ電子が非局在化し(共鳴)、C=O結合が長くなるためと説明されます8。アミドの吸収の位置は窒素上の置換の程度で変わり8、表2の例では、置換基が多いほど低い値になっています。酸塩化物・酸無水物が高く、アミドがもっとも低いという大まかな並びは、求核アシル置換の反応しやすさの順(酸塩化物がもっとも反応しやすく、アミドがもっとも反応しにくい)とおおむね対応しています(ただし、もっとも高い吸収は酸無水物の1820 cm⁻¹です)。
酸無水物は、C=Oの領域に1820と1760 cm⁻¹の2本の吸収を示すのが特徴で、これで見分けられます8。
O–Hの吸収の位置と形は、水素結合の程度で変わります。水素結合していないアルコールは3600 cm⁻¹付近にかなり鋭い吸収を示しますが、水素結合したアルコールでは3300〜3400 cm⁻¹に幅広い吸収になります5。ふだん目にするアルコールのO–Hが幅広いのは、O–H基どうしの水素結合のためです4。
カルボン酸のO–Hは、アルコールよりさらに幅広く、2500〜3300 cm⁻¹の低い波数側まで広がります6。カルボン酸は2分子が水素結合で結びついた二量体になりやすく、ふつう見られるのはこの二量体の吸収です。C=Oも、単量体では1760 cm⁻¹ですが、二量体では1710 cm⁻¹付近を中心とする幅のある吸収になります6。図3は、このカルボン酸の吸収を模式的に示したものです。
アミンのN–Hも3300〜3500 cm⁻¹に出るので、アルコールのO–Hと混同しやすい吸収です。見分ける手がかりは2つあります4,10。
IRスペクトルは、全部のピークを説明しようとせず、目立つ吸収から順に「ある・ない」を確かめていくと読みやすくなります。
吸収が無いことも情報になります。3300と2150 cm⁻¹付近に吸収が無ければ末端アルキンではなく、3400 cm⁻¹付近(3300〜3600 cm⁻¹)に吸収が無ければアルコールではない、というように候補を消せます4。ただし、弱く出る吸収(対称なC=C・内部アルキンのC≡C)は、無いことの根拠にはしません。
指紋領域のピークを、1本ずつ全て解釈しようとするのはよくある間違いです。指紋領域は「同じ分子かどうかを照合する」用途には向いていますが、多くの振動が重なっているので、初めて見る未知の化合物をこの領域だけから決めるのは、実際には困難です。まず4000〜1500 cm⁻¹の特徴的な吸収で官能基を絞り込み、指紋領域は補助的な確認に使う、という手順が基本です。
5節の手順で、分子式と吸収から官能基を決めてみましょう。IRで分かるのは主に官能基で、炭素骨格の形まで決めるにはNMRなどを合わせて使います。
答え: アセトン(ケトン)。不飽和度は1です。C3H6Oの候補には、アセトン・プロパナール・2-プロペン-1-オール(アリルアルコール)などがあります。1715 cm⁻¹の強い吸収はC=Oで、アセトンの値そのものです2。2-プロペン-1-オールならC=Oが無く、3500 cm⁻¹にO–H、1660 cm⁻¹にC=Cが出ます2。プロパナールならC=Oが1730 cm⁻¹付近になり、2700〜2760 cm⁻¹にアルデヒドのC–Hが出るはずです7。
答え: 飽和のエステル(たとえば酢酸エチル)。不飽和度は1です。1735 cm⁻¹のC=Oと1300〜1000 cm⁻¹の2本のC–Oは、飽和のエステルの特徴です4。同じ分子式のブタン酸(カルボン酸)なら、2500〜3300 cm⁻¹に非常に幅広いO–Hが出て、C=Oは二量体の1710 cm⁻¹付近になります6。酢酸エチルとプロパン酸メチルのようなエステルどうしは、IRだけでは区別しにくいのでNMRで見分けます。
答え: 一置換のアルケン(たとえば1-ヘキセン)。不飽和度1は、環1つか二重結合1つです。3000 cm⁻¹の上の3100 cm⁻¹(=C–H)と1660 cm⁻¹(C=C)があるので、シクロヘキサンのような環ではなくアルケンです。さらに910と990 cm⁻¹の2本は一置換のアルケン(R–CH=CH2)の特徴です4。鎖の枝分かれまではIRでは決まりません。
答え: フェニルアセチレン。不飽和度は6と大きく、ベンゼン環(4)と三重結合(2)の組み合わせを疑います。3300 cm⁻¹の鋭い吸収は末端アルキンの≡C–H、3000〜3100と1450〜1600 cm⁻¹はベンゼン環のC–HとC=C、750 cm⁻¹は一置換のベンゼン環の面外変角に当たります4。
答え: 第一級アミン(たとえばシクロヘキシルアミン)。不飽和度は1です。酸素を含まないのでC=Oは無く、=C–HもC=Cの吸収も見えないので、環を1つ持つ可能性が高いと考えます(C=Cの吸収は弱いことがあるので、IRだけでは二重結合を完全には消せません)。O–Hより鋭い吸収が2本並ぶのは、NH2の対称伸縮と逆対称伸縮で、第一級アミンの特徴です10。第二級アミンなら1本、第三級アミンならこの領域に吸収はありません10。
Q1. 結合が強いほど、また原子が軽いほど、吸収する波数はどうなりますか?
A1. 高くなります。振動数は√(k/μ)に比例するので、力の定数 k(結合の強さ)が大きく、換算質量 μ が小さいほど高い波数で吸収します。
Q2. C–HをC–Dに置き換えると、伸縮振動の吸収はどのくらい動きますか?
A2. 低い波数側に、およそ0.73倍の位置へ動きます。力の定数はほとんど変わらず、換算質量が0.930から1.725に増えるためです。2850〜2960 cm⁻¹のC–Hなら、C–Dはおよそ2090〜2170 cm⁻¹と見積もれます。
Q3. 左右対称に近いアルケンで、C=Cの吸収が小さくなるのはなぜですか?
A3. 赤外線が吸収されるには、振動によって双極子モーメントが変化する必要があるからです。対称に近いアルケンのC=Cが伸び縮みしても、双極子モーメントはほとんど変わりません。
Q4. 指紋領域のピークを、なぜ1本ずつ全て解釈しようとしてはいけないのですか?
A4. 指紋領域は多くの振動の吸収が重なって分子ごとに複雑なパターンを示し、未知の化合物のこの領域だけから構造を決めることは実際には困難だからです。まず特徴的な吸収で官能基を絞り込み、指紋領域は照合や補助的な確認に使います。
Q5. アルデヒドとケトンをIRで見分けるには、どこを見ますか?
A5. アルデヒドのCHOのC–Hが示す2本の吸収のうち、低い方(2700〜2760 cm⁻¹)を見ます。高い方(2800〜2860 cm⁻¹)は飽和のC–Hの吸収に隠れることがありますが、低い方はほとんどいつも見えるからです。C=Oの位置も、飽和のアルデヒドは1730 cm⁻¹、飽和のケトンは1715 cm⁻¹と少し違います。
Q6. シクロペンタノンのC=Oが、シクロヘキサノンより高い波数(1750 cm⁻¹)に出るのはなぜですか?
A6. 5員環ではカルボニル基の角度にひずみがかかり、C=O結合が硬くなるためです。4員環のシクロブタノンではさらに高く、1785 cm⁻¹になります。
Q7. アミドのC=Oが、酸塩化物やエステルより低い波数に出るのはなぜですか?
A7. 窒素からカルボニル基へ電子が非局在化し(共鳴)、C=O結合が長くなるためです。逆に酸塩化物や酸無水物では、電子求引性の強い基の誘起効果でC=O結合が短くなり、高い波数に出ます。
Q8. 第一級アミンと第二級アミンでは、N–Hの吸収の本数はどう違いますか?
A8. 第一級アミン(R–NH2)は対称伸縮と逆対称伸縮による2本、第二級アミン(R2NH)は1本の吸収を示します。N–Hを持たない第三級アミンには、この位置に吸収が現れません。
IRスペクトルを読むときは、「どの領域に、どんな形の吸収があるか(無いか)」を順に確かめ、官能基の候補を絞ることが中心です。吸収の位置は結合の強さと原子の質量、強さは双極子モーメントの変化、形は水素結合で決まる、という3つの考え方に戻ると、表の数字を丸暗記しなくても多くの吸収を説明できます。
官能基の「有無」はIRスペクトルで判断できますが、分子内の水素や炭素がそれぞれどんな環境に置かれているかを詳しく知りたい場合は、NMRスペクトルが有力な手段になります。
また、どの官能基がありうるかを考える前提になる分子式そのものは、質量スペクトルから決めるのが一般的です。